『ラ・ラ・ランド』はオスカー戦線を走り抜くことができるか? 米在住ライターによる5つの考察

『ラ・ラ・ランド』オスカー戦線を走り抜く?

4.トム・ハンクスにも愛されている

 北米プレミアが行われたテルライド映画祭にて。同じく映画祭で上映されたクリント・イーストウッド監督の『ハドソン川の奇跡』に主演したトム・ハンクスは記者会見で、自身の主演作を先置いて『ラ・ラ・ランド』を激賞した。「誰も知らない歌を歌うミュージカルなんて、スタジオが絶対作りたくない作品だよ。今の映画界のトレンドでは、すでに知名度の高い原作の映画化や続編ばかり作られているのだから。でも、僕ら映画製作者は、『今まで観たことのない映画を観たい』と願う観客の視点に立ち返って考えなくては。大手スタジオが望むものが何もない『ラ・ラ・ランド』が興行的成功を納めるかどうかはチャレンジだね。だけど、こんな素晴らしい映画が受け入れられなかったら、僕らはもう終わったも同然だ」

 アカデミー賞主演男優賞を二度受賞しているトム・ハンクスであっても、1票の投票権しか持たない。だが、彼の発言は今の映画界を如実に表している上に、劇中でライアン・ゴズリングが演じたジャズ・ミュージシャンのセバスチャンがもがく悩みと同じだ。この発言は、多くのアカデミー賞会員の襟を正すことだろう。

 この賞賛発言から4ヶ月後、デイミアン・チャゼル監督とライアン・ゴズリングは、映画館でのQ&Aセッションでこう語った。

「僕らはセットでずっとトム・ハンクスの話をしていたからね」(ゴズリング)
「(ハンクスの初監督作)『すべてをあなたに』は音楽映画では珍しく、ジャズ・ドラマーを主人公にした作品だったから」(チャゼル)

 そして、30年前にミュージシャンを目指す若者の青春物語である『すべてをあなたに』で主演デビューを飾ったトム・エヴェレット・スコットが、『ラ・ラ・ランド』においてある重要な役で出演している。

5.2016年のアメリカに必要とされている!

 そもそも、2016年はアメリカにとって辛すぎる現実をつきつけられた年だった。昨年11月の大統領選以来、まるで死刑執行を待つ罪人のような面持ちで1月の大統領就任を迎えようとしている。『ムーンライト』や『マンチェスター・バイ・ザ・シー』も素晴らしい作品であることは間違いないが、労働者階級の辛い現実を映画館でも見せつけられてしまうと、アメリカ人の心の拠り所が失われてしまう。せめて、映画館では楽しく美しい夢を観させて欲しいと願う気持ちが、『ラ・ラ・ランド』のアカデミー賞受賞への道を推し進めていくことだろう。

 少し心配することがあるとすると、12月25日に流れたジョージ・マイケルの訃報によって、劇中の微笑ましいシーンに別の意味合いが生まれてしまうこと。これだけは誰も予想できなかった。幸せなミュージカルの世界から現実へと引き戻されてしまう感覚は、『ラ・ラ・ランド』のオスカーへの道を阻んでしまうかもしれない。2016年のアメリカは、それほどまでに夢のような映画への現実逃避を欲している。

(文=小川詩子)

■公開情報
『ラ・ラ・ランド』
2月24日(金)TOHOシネマズ みゆき座ほか全国ロードショー
監督・脚本:デイミアン・チャゼル
出演:ライアン・ゴズリング、エマ・ストーン、J・K・シモンズ
提供:ポニーキャニオン/ギャガ
配給:ギャガ/ポニーキャニオン
Photo credit: EW0001: Sebastian (Ryan Gosling) and Mia (Emma Stone) in LA LA LAND. Photo courtesy of Lionsgate. (c)2016 Summit Entertainment, LLC. All Rights Reserved.
公式サイト:http://gaga.ne.jp/lalaland/

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