年末企画:久保田和馬の「2016年 年間ベスト映画TOP10」

久保田和馬の年間ベスト10

 リアルサウンド映画部のレギュラー執筆陣が、年末まで日替わりで発表する2016年の年間ベスト企画。映画、国内ドラマ、海外ドラマの三つのカテゴリーに分け、映画の場合は2016年に日本で劇場公開された洋邦の作品から、執筆者が独自の観点で10本をセレクト。第二回の選者は、単館系からアニメまで幅広く論じ、若手女優ウォッチャーとしても多くのレビュー・コラムを執筆した映画ライターの久保田和馬。(編集部)

1位:『レッドタートル ある島の物語』
2位:『山河ノスタルジア』
3位:『この世界の片隅に』
4位:『光りの墓』
5位:『ロイヤル・ナイト 英国王女の秘密の外出』
6位:『ちはやふる 上の句』
7位:『スポットライト 世紀のスクープ』
8位:『キャロル』
9位:『時間離脱者』
10位:『花、香る歌』

 今年はアニメの当たり年と言われ続け、おそらくほとんどの人が上位に何かしらアニメ映画を入れるだろう。その中でも自分にとっては『レッドタートル ある島の物語』が抜きん出て別格。いや、特別。わずか80分足らずの尺に、人生の全てが詰め込まれているなんて、まさに映画の中の映画。あまりヒットしなかったために、上映期間が短かったことが心残りだが、その間に何度劇場に足を運んだことか。

 初見時はただただ映像と物語に圧倒され、2度目は主人公の視点から、そして3度目には成長した少年の立場で涙を流した。台詞が一切ないのに、不思議と脚本が見えてくるのはパスカル・フェランの魔力に違いない。そして、マイケル・デュドク・ド・ヴィット。言うたびに噛んでしまいそうになる名前だけれど、今年この名前を何度口に出したことだろうか。短編アニメとして充分すぎるほどであった『岸辺のふたり』を、さらに上回る密度で魅了してくれた。問答無用にアニメ映画のオールタイムベストにランクインするクオリティだ。

 フランス版のブルーレイに画集が付いてくることを知り、取り寄せるか否かまだ悩んでいるところである。リージョンが日本でも対応していれば何も迷うことはないのだけれど。

 サプライズに面白かったのは5位に入れたイギリス映画『ロイヤル・ナイト』と9位に入れた韓国映画『時間離脱者』。前者はひたすら走り続ける一夜の話で、これ以上もこれ以下にもしようがない魅力的な筋書きにただただときめいた。後者はクァク・ジェヨン監督作品ということで安心して観ていたのだけれど、想像を遥かに超える娯楽性の高さに、思わず身を乗り出して観てしまうほど熱中。過去を変えたことで現在が変わっていくVFXや、体育館での対面シーンは実にしびれた。

 ぎりぎりベストテンには入らなかった作品も、今年はかなり充実。『ハドソン川の奇跡』や『ファインディング・ドリー』といったハリウッドメジャーから、パルムドール受賞作の『ディーパンの闘い』、ドキュメンタリーの『ティファニー ニューヨーク五番街の秘密』も忘れがたい。

【TOP10で取り上げた作品のレビュー】
タイの天才・アピチャッポンが生み出す映画的サプライズーー最新作『光りの墓』の名シーン分析
広瀬すずと松岡茉優、『ちはやふる』で熾烈な演技合戦! 二人の違いから『下の句』の魅力を読む
『スポットライト』、社会派映画としての価値ーーあまりにも大きな“悪”をどう描いたか
女性同士の恋愛と自立を描く『キャロル』の、“赤色”に込められた深い意味

■久保田和馬
映画ライター。1989年生まれ。現在、監督業準備中。好きな映画監督は、アラン・レネ、アンドレ・カイヤット、ジャン=ガブリエル・アルビコッコ、ルイス・ブニュエル、ロベール・ブレッソンなど。

■公開情報
『レッドタートル ある島の物語』
全国公開中
原作・脚本・監督:マイケル・デュドク・ドゥ・ヴィット
脚本:パスカル・フェラン
アーティスティック・プロデューサー:高畑勲
音楽:ローラン・ペレズ・デル・マール
製作:スタジオジブリ ワイルドバンチ
配給:東宝
(c) Kazuko Wakayama

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