サエキけんぞうの『エブリバディ・ウォンツ・サム!!』評:SNS時代に提示される、80年代青春群像

サエキけんぞうの『エブリバディ〜』評

 冒頭では、テキサスのことを、トランプを支持する保守的な地域として紹介したが、数少ない90年代米インディーズ出身監督であるリチャード・リンクレイターの出身地でもある。リンクレイターが映画協会を作ったオースティンは、毎年3月に行なわれるサウス・バイ・サウスウエストという大イベント開催で有名で、同祭は音楽ではオルタナティヴ系の牙城でもあり、日本から沢山のバンドが出演を果たしている。野球部の先輩が主人公ジェイクの大事なレコード棚からニール・ヤングの1977年の通好みのベスト盤「DECADE」を選び出し「こりゃいい。まさか返せなんていわないよな!」と没収するシーンは、そんな土地柄にもピッタリなのである。

 エンドロールのカーズ「グッド・タイムス・ロール」はタイトル自体が80年代青春へのオマージュになっている。しかし、恐らく米国は変わらず「アニマルハウス」を内在させるファットなセクシュアリティも持っている。それに何らかの手段で対抗しないと、少子化で草食の日本の我々は勝てないだろう。

 1980年当時の大学生の髪型~サイドをウェイブさせる短髪中心~も忠実に再現、服装などのビジュアルも完璧。振り付け師アンドレア・アリエルにより、ディスコ全盛時代の若者のダンスもバッチリと当時の活気を出している。

 SNSという時代のトラップにまみれた今をめがけて提示された1980年の人間臭いやりとりに満ちた青春群像。時間を我が手にしていた若者達がひたすらジョークを飛ばし続ける物語の後半はダレるけれど、ある種の普遍的なワイルドな息吹が、80年代という時代観とタッグした不思議な感慨をもたらす作品だ。

■サエキけんぞう
ミュージシャン・作詞家・プロデューサー。1958年7月28日、千葉県出身。千葉県市川市在住。1985年徳島大学歯学部卒。大学在学中に『ハルメンズの近代体操』(1980年)でミュージシャンとしてデビュー。1983年「パール兄弟」を結成し、『未来はパール』で再デビュー。沢田研二、小泉今日子、モーニング娘。など、多数のアーティストに提供しているほか、アニメ作品のテーマ曲も多く手がける。大衆音楽(ロック・ポップス)を中心とした現代カルチャー全般、特に映画、マンガ、ファッション、クラブ・カルチャーなどに詳しく、新聞、雑誌などのメディアを中心に執筆も手がける。

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■公開情報
『エブリバディ・ウォンツ・サム!! 世界はボクらの手の中に』
公開中
監督・脚本:リチャード・リンクレイター
プロデューサー:ミーガン・エリソン、ジンジャー・スレッジ、リチャード・リンクレイター
撮影監督:シェーン・ケリー
編集:サンドラ・エイデアー 
出演:ブレイク・ジェナー、ゾーイ・ドゥイッチ、グレン・パウエル、タイラー・ホークリンほか
配給:ファントム・フィルム
2016/アメリカ/アメリカン・ビスタ/117分
原題:Everybody Wants Some!!
(c)2015 PARAMOUNT PICTURES. ALL RIGHTS RESERVED.
公式サイト:http://everybodywantssome.jp/

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