魔法少女アニメなぜ激増? 『魔法使いサリー』から『魔法少女育成計画』に至る系譜を読む

残酷描写の極まった『魔法少女育成計画』

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『魔法少女育成計画』(c)2016 遠藤浅蜊・宝島社/まほいく

 さて、話を2016年10月に戻すが、やはりこれだけ“魔法少女もの”の企画が乱立する要因となったのは、『まどマギ』の成功が大きいのだろう。同時に、メルヘンチックなペルソナを用いて、残酷な描写をしかける手法も大きく注目されることになった。『リリカルなのは』シリーズ最新作の『Vivid Strike!』では、格闘技の才能を持った少女がいじめっ子に復讐する姿が描かれたり、『ストライクウィッチーズ』シリーズの新作である『ブレイブウィッチーズ』は、苛烈な描写こそないものの、ウィッチたちはネウロイという未知の存在との戦争に駆り出されている。『終末のイゼッタ』も、リアルな戦争描写が話題となっている。

 そして、今期の“魔法少女もの”で、とりわけ『まどマギ』以後の作品として、注目すべきなのは、『魔法少女育成計画』だろう。原作者、遠藤浅蜊の「魔法少女がぐちゃぐちゃになって死んでいくところを書きたい」(参考:このマンガがすごい!WEB 遠藤浅蜊×マルイノ『魔法少女育成計画』対談)という執筆動機からスタートしたこの作品では、「まどマギ」ですらやらなかった、魔法少女同士の血みどろのバトルロイヤルが描かれる。第7話では、魔法少女の一人が、別の魔法少女をショットガンで肉片にし、燃やしてからドラム缶にコンクリート詰めにして海に沈めるという描写まで飛び出した(しかも不死身だからそれでも死なない)。さらには、当初の魔法少女は女の子が大人に変身するパターンが多かったが、同作では少女だけでなく、大人の女性や少年までもが魔法少女に変身しており、みな一様に苦しい現実を生きている。魔法少女は、理想の姿というより、つらい現実からの退避場所となっているのも本作の特徴だ。

ジャンルの成熟後、原点回帰は起こるか

 様々な表現が可能になること自体はジャンルの成熟であり、悪いことではない。深夜帯においても残酷描写ばかりが先行しているわけでもなく、現在放送中の各作品は実に多種多様だ。それに、残酷描写が行き着くところまでいけば、今度は原点回帰の道も模索されるかもしれない。そういう流れが起きているからなのかどうかは分からないが、2017年には、現在の深夜アニメにおける魔法少女の原点である『なのは』シリーズの新劇場版が公開される。さらに、『カードキャプターさくら』の劇場版のリバイバル上映と新作アニメプロジェクトの始動も発表された。現在の潮流を作った原点2作がどのような内容になるのか注目したい。

■杉本穂高
神奈川県厚木市のミニシアター「アミューあつぎ映画.comシネマ」の元支配人。ブログ:「Film Goes With Net」書いてます。他ハフィントン・ポストなどでも映画評を執筆中。

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