『映画 聲の形』から『響け!ユーフォニアム2』へ 京都アニメーション作品はなぜ優れている?

 このような比喩としてのサイレント映画の表象は、実は『響け!ユーフォニアム』にも見いだせる。こちらは日本の弁士的表現よりも音楽と編集テクニックに注目する。その姿勢が最も先鋭化したエピソードが『響け!ユーフォニアム2』の第5話「きせきのハーモニー」だ。このエピソードでは主人公、久美子の所属する北宇治高校吹奏楽部の関西大会本番が描かれるが、圧巻なのは約7分に渡る長い演奏シーンを、一切の台詞を排して描いてみせた点だ。しかもただ演奏シーンを見せただけでなく、それまで積み重ねられた物語を凝縮したかのように、映像の繋ぎと演奏の展開によって、演奏シーンの中で人物の感情が交錯したドラマを作り出していたことにある。

 高坂麗奈のトランペットソロに入る直前に田中あすかが久美子に目配せし、そこから久美子の麗奈への目配せのアップから、麗奈のトランペットソロに入り、久美子が麗奈との回想シーンが挿入される。トランペットソロから流れるように2期前半の主役の鎧塚みぞれのオーボエソロへと移り、みぞれのトラウマの要因だった傘木希美がステージ裏で天を見つめ微笑むカットから、希美の部への復帰を認めなかったあすかへとつなげて、みぞれとあすかのわだかまりの解消が示唆される。そこから、1期から久美子の課題だったパートの後に、一瞬笑みを浮かべる滝先生を差し込み、主人公の成長ぶりを表現してみせ、随所に挿入される思い出写真で埋め尽くされた楽譜が、部員たちの日常と、楽譜を読まずとも演奏できるほどの練習の積み重ねを物語る。暗いステージ裏で目を閉じ手を合わせ祈り続けるサポート部員たちの中央には、細く長い光が天に伸び、細くとも長く続くその光が、彼女/彼らの困難な道を象徴するかのように見える。極めつけは、演奏を締めくくる滝先生の指揮がまるでガッツポーズのようで、これが渾身の出来であったことが隠喩的に表現されている。

 この一連のシークエンスは音楽の表現の豊かさの他、発声せずとも奥深い表現が可能であるという、映像というイメージの芸術本来の持つ力、そして画と画をつなぎイメージの連続で語るモンタージュの表現の豊かさに自覚的でなければできることではない。この演奏シーンの、声の不在による表現の豊かさの追求は、『映画 聲の形』とも共通する姿勢を見いだせる名シーンだ。この5話の演出担当は、ベテランの三好一郎(木上益治)。映像演出を熟知していなくてはできない円熟の仕事だ。

 技術の発展によってアニメーション表現の可能性を広げていくなかで、自覚的に伝統的な映画表現に立ち返る京都アニメーション。その奥深い表現力は、アニメ業界のみならず、日本の映像業界全体のフロントランナーと言っても過言ではない。

■杉本穂高
神奈川県厚木市のミニシアター「アミューあつぎ映画.comシネマ」の元支配人。ブログ:「Film Goes With Net」書いてます。他ハフィントン・ポストなどでも映画評を執筆中。

■放送情報
『響け!ユーフォニアム2』
TOKYO MX1、ABC朝日放送、KBS京都、テレビ愛知、tvk、BS11にて放送中
原作:武田綾乃(宝島社文庫「響け!ユーフォニアム」シリーズ)
監督:石原立也
シリーズ構成:花田十輝
キャラクターデザイン:池田晶子
シリーズ演出:山田尚子
アニメーション制作:京都アニメーション
製作:『響け!』製作委員会(京都アニメーション、ポニーキャニオン、ランティス、楽音舎)
(c)武田綾乃・宝島社/『響け!』製作委員会
公式サイト:http://anime-eupho.com/

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