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超低予算映画『あなたを待っています』 いまおかしんじ×菊地健雄が語る“面白い”自主映画の作り方

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 平成のつげ義春とも呼ばれる漫画家・いましろたかしが原案・企画を立ち上げた映画『あなたを待っています』。映画監督である山下敦弘と松江哲明が、いましろの呼びかけに賛同し、自腹を切ってプロデューサーを務めた超低予算の自主映画だ。演技未経験の漫画家・大橋裕之を主演に据え、地震や原発といった題材を扱いつつ、個性的な登場人物たちと独特のストーリーによって、どこか奇妙な味わいを持った作品となっている。リアルサウンド映画部では、本作のメガホンを執ったいまおかしんじ監督と、いまおか組で助監督を務めたこともあり、いまおか映画をよく知る菊地健雄監督の対談を企画。現在の自主映画をとりまく状況、映画に対する互いのスタンスの違い、「映画を作ること」をテーマに、語ってもらった。(メイン写真=左・菊地健雄、右・いまおかしんじ)

スタッフもキャストも日当3000円!

−−本作はどういう枠組みの中で出来上がっていったのでしょうか。

いまおかしんじ(以下、いまおか):いましろさんの企画で映画を作ることが決まって、山下君から俺に監督オファーがきた。山下君と松江君から「いましろさんといまおかさん、二人で勝手にやって下さい。予算内でできるなら、どんなことをやってもいいです」って言われてさ。で、ホンが出来上がって、キャスティングをどうするかは、山下君と松江君も集まって会議をして。ヒロイン役の山本ロザは、彼女が出演していた「鉄割アルバトロスケット」の芝居をたまたま山下君が観ていて、あの子がいいと言ってね。俺は知らなかったんだけど、それでみんなでシモキタの芝居小屋前で出待ち。

菊地健雄(以下、菊地):いまおかさんは彼女の芝居を観ないで、出待ちしただけなんですか?

いまおか:観る時間はないなって。いましろさんと山下君、松江君、俺の四人で劇場の前で待って、その場で台本渡して、“自主映画”なんだけど出てくれませんかと。出待ちして台本渡すなんて普通ないよね(笑)。

菊地:主演の大橋裕之さんは、どういった経緯で出演が決まったんですか。

20161024-anatawomatteimasu-1.jpg西岡役・大橋裕之

いまおか:いましろさん、山下君、松江君がそれぞれ25万ずつ出して75万で映画を作ると。人件費はほぼ出ない、予算は現場費に全部使うと最初は考えていたんだけど、キャスト・スタッフがノーギャラは流石にきついなという話になった。それじゃあ日当制にして、スタッフもキャストも全員一日3000円にしようと。となると、知らない人には声をかけられないよね(笑)。で、主人公を誰にお願いするかとなって、松江君は前野健太がいいと言っていたんだけど、スケジュールの予定が合わない。そこで、山下君の知り合いでもある大橋さんの名前が挙がった。でも、芝居やったことないだろうけど大丈夫か、とみんなで心配してたわけよ。そしたら、いましろさんが「冒険しないで何が面白いんだよ!!」と怒ってね。このセリフは撮影中も仕上げ中も散々言われた(笑)。それで漫画家・演技未経験の大橋さんになった。

菊地:つまり、主演二人は演技を観ないで決めたということですよね。この映画は、いきなり大橋さん演じる西岡の嘔吐シーンから始まり、かなり意表を突かれました。次のシーンでは、西岡が突然うさぎ跳びをした後にまた嘔吐したり(笑)。極端なアクションをやっていますが、いわゆる“役者”の方に頼んでいたら、なんでこの動きをするんですか?など、どうしても意味を求められて難しい場合もあるわけです。素人も映画常連の人も混在して出演しているのが、いまおか映画の特徴ですけど、いわゆる芝居が“上手くない”人が多いですよね。でも、これはこれでいいんだと納得させられちゃうのがいまおかさんの映画らしい。僕だったら怖くてできないです。芝居を上手く見せるために、演出を考えたり、リハーサルを何回もやってしまいがちなので。芝居について、いまおかさんはどう考えているんですか。

いまおか:この映画に限って言えば、芝居とか実はどうでもよくて、見た目というか、大事なのはその存在感かなと。決して芝居ができるわけではない人物でも、立っているだけで面白い人っているじゃない。ちゃんと映画を作るという方法からどんどん離れていくんだけど、「なんか、面白いじゃん」と。カメラマンは一人、照明部はいない、美術もない、という状況の中で、全部ちゃんとしていればいいけど、芝居だけちゃんとしようとするのも何か違うからね。それに、演出を考えようとすると、いましろさんから「商業主義にはしるのか!」とか言われてさ(笑)。そういった部分も含めて、この映画は「既成じゃないもの」を目指したというのはある。

−−菊地監督は本作のどのような部分に惹かれましたか。

菊地:売れない役者で彼女もいないくせに、地震や原発のことから危機感を覚えて「女を十人連れて山に逃げる!」って言ってる主人公・西岡の設定がまず面白い。そして、街で「あなたを待ってます」と書かれたプラカードを下げた見た目は外国人なヨシコと出会うことで、何かピンと来て自分なりの正義感で行動を起こす。この設定も秀逸ですよね。パンフレットを読むと、山下さんが今作をマーティン・スコセッシの『タクシードライバー』を引き合いに出して語っていたんですが、これってお話しの構造はまさに一緒だなと。あ、こういう手があったかと少し悔しさも覚えました。“自主映画”でも、面白いものは面白いと改めて感じましたね。

20161024-imaoka.JPGいまおかしんじ監督

いまおか:今、自主映画を撮っている連中は上映までしても、借金ができてしまうような制作状況で、上映するメリットがなくなってきている。だから、自主映画を儲かるようにしたい、といましろさんは常々言っているんだよね。そのために、自主映画専門の会社を作るんだと。でも、いきなり会社を作るのは山下君と松江君が止めた。まずは自分たちで一本撮ってみましょうということで、出来上がったのがこれ。

菊地:作り方としては、いまおかさんがこれまで手がけていたピンク映画や「青春H」などの低予算映画と変わらなかったのか、それとも山下さんや松江さんの存在があって違う部分もあったんですか。

いまおか:作り方もそうだけど、内容に関しても“商業映画”じゃできないことをやろうというのはあった。それでもエンタメしなくちゃとか、面白いところ作らなくちゃまずいよな、とか思っちゃって。山下君と松江君は何も言わないんだけど、いましろさんが「面白くなくていいんだよ! 面白いなんて価値観は人それぞれバラバラなんだから、そんな気持ちはいらん!」って言うわけ。いやいや、誰もが観ても分かる面白さは必要でしょうと。そういう意味で好きに作れるとは言っても、難しかったかなあ。

菊地:好きにやっていると言えば、西岡の嘔吐ですよね。冒頭が嘔吐から始まって、映画が終わるまで合計8回も嘔吐している。これはいまおかさんのアイデアなんですか。

いまおか:うん、ゲロが好きなのかも。飲み会とかでも酔っ払って嘔吐している女の子を介抱していると好きになっちゃうから(笑)。まさに弱みの局地みたいな状況だから、そういうところにグッとくるんだろうね。

菊地:映画のテーマとして原発を扱っているので、放射能の影響を受けているのかと勘ぐりましたが、まったく違う理由でした(笑)。

      

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