『不思議惑星キン・ザ・ザ』の“SF=すこしふしぎ”な魅力ーー80年代ロシア発のカルト作を観る

『キン・ザ・ザ』リバイバル公開に寄せて

 そもそもロシア映画が日本で劇場公開されているイメージはあまりない。ロシアやソビエトの映画といえば、アンドレイ・タルコフスキーやアレクサンドル・ソクーロフといった、いわゆる世界的映画作家の作品ばかりが一般的にロードショーされるばかりで、若干敷居の高いイメージが拭えていない。調べてみると、2001年以降で日本で劇場公開された作品は50本程度で、ここ数年の「未体験ゾーンの映画たち」などで上映されるロシア製アクション映画がその多くを占めているようだ。それでもイタリアに次ぐ製作本数を誇るロシアは、れっきとした映画大国なのだ。

 もちろん、この『不思議惑星キン・ザ・ザ』だって、ソビエト映画界が誇る偉大な作家の作品である。ゲオルギー・ダネリヤは50年代から活躍する監督で、ロシア最大の撮影所モスフィルムを代表する巨匠なのだ。なんとこのダネリヤ監督、2013年に自らの手で本作をリメイクしているのだから驚きである。13年ぶりに監督復帰した作品で、しかもアニメーションで本作を作り直したのだ。地球での場面が現代的に脚色されているだけで大筋は変わっておらず、一瞬でテレポートする場面や、中盤で突然現れる用語解説のテロップまで再現されている。あの妙に切なさの残るオリジナルのラストシーンも、少し雰囲気は変わるが、きちんと残されているのである。もっとも、ダネリヤにとって、それだけ思い入れの強い作品ということなのだろうか。

 しかし、いくら社会風刺が込められた巨匠の野心作といっても、小難しいものと錯覚してはならない(難解かどうかといわれれば充分難解な部類に入るけれども)。画面上では135分間、よくわからないおじさんたちが「クー!」と言っている映画なのだから、あまり気を張って観たら拍子抜けしてしまうだろう。世界中でSF映画がブームとなった80年代に、冷戦終結直前のソビエトが作り出した最も気の抜けた娯楽作を、純粋に楽しめばいいのだ。

■久保田和馬
映画ライター。1989年生まれ。現在、監督業準備中。好きな映画監督は、アラン・レネ、アンドレ・カイヤット、ジャン=ガブリエル・アルビコッコ、ルイス・ブニュエル、ロベール・ブレッソンなど。Twitter

 

■公開情報
『不思議惑星キン・ザ・ザ』≪デジタル・リマスター版≫
8月20日(土)より新宿シネマカリテにてレイトショー
監督:ゲオルギー・ダネリヤ
脚本:レヴァス・ガブリアゼ、ゲオルギー・ダネリヤ
撮影:バーヴェル・レヴェシェフ
製作:モスフィルム・スタジオ
出演:スタニスラフ・リュブジン、エヴゲーニー・レオン、ユーリー・ヤコヴルフ、レヴァン・ガブリアゼ
1986年/ソ連/カラー/デジタル/135分/1989年日本初公開・2001年リバイバル公開作品/原題:KIN-DZA-DZA 
提供・配給:パンドラ+キングレコード
(c)Mosfilm
公式サイト:kin-dza-dza-kuu.com

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