荻野洋一の『ゴーストバスターズ』評:ポール・フェイグ監督がリブート版で捧げたオマージュの数々

荻野洋一の『ゴーストバスターズ』評

 余談だが、シリーズ前作はもちろん、さまざまなSFやホラーへのオマージュが込められた本作でとりわけ印象深かったのが、スタンリー・キューブリック監督への言及である。むかし書いた幽霊本を恥じるクリステン・ウィグが、販売停止を頼みに久しぶりに共同著者メリッサ・マッカーシーに会いに行く場面。メリッサ・マッカーシーは「Well, well, well, well, well…」と応じるのだが、これはキューブリック『時計じかけのオレンジ』(1972)で、暴力性除去の洗脳施術を受けたマルコム・マクダウェルが、警官に転身したかつての悪友に出くわす場面でその警官が「Well, well, well, well, well…」とマクダウェルに向かって言う、その口まねをメリッサ・マッカーシーはしていたのである。

 そしてバスターズの唯一の黒人女性レスリー・ジョーンズが、幽霊を捜索しながら、「私は『シャイニング』の双子姉妹と出くわすのはゴメンだよ」と言ったとたん、目の前の部屋におびただしい数のマネキン人形が立てかけられている。これはスタンリー・キューブリックの初期作品『非情の罠』(1955)から来ている。そのマネキンがいつのまにか移動しているのは、ウィル・スミス主演のSFホラー『アイ・アム・レジェンド』(2007)から来ているだろうし、マネキンがドアを叩き壊して部屋に入ろうとする場面は、キューブリックがD・W・グリフィス監督、リリアン・ギッシュ主演の名作『散り行く花』(1919)に思いを馳せながら演出したというホラー映画『シャイニング』(1980)のあまりにも有名な斧の場面から来ているだろう。

 本作は、エンドクレジットの最後で、亡きハロルド・ライミスに捧げられている。

■荻野洋一
番組等映像作品の構成・演出業、映画評論家。WOWOW『リーガ・エスパニョーラ』の演出ほか、テレビ番組等を多数手がける。また、雑誌「NOBODY」「boidマガジン」「キネマ旬報」「映画芸術」「エスクァイア」「スタジオボイス」等に映画評論を寄稿。元「カイエ・デュ・シネマ・ジャポン」編集委員。1996年から2014年まで横浜国立大学で「映像論」講義を受け持った。現在、日本映画プロフェッショナル大賞の選考委員もつとめる。(ブログTwitter

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■公開情報
『ゴーストバスターズ』
8月11日(木・祝)~14日(日)先行公開
8月19日(金)全国公開
監督:ポール・フェイグ
製作:アイヴァン・ライトマン
出演:クリステン・ウィグ、メリッサ・マッカーシー、ケイト・マッキノン、レスリー・ジョーンズ、クリス・ヘムズワース
配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
公式サイト:GHOSTBUSTERS.JP

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