『とと姉ちゃん』登場人物は“戦争”をどう捉えたか? 同志との出会い描かれた十二週目

 戦争の影響で庶民の暮らしが逼迫していく中、生涯の同志となる花山伊佐治(唐沢敏明)と小橋常子(高畑充希)の出会いが描かれた、『とと姉ちゃん』第十二週。

 新しい仕事先の甲東出版で、常子は編集の仕事にやりがいを見出していく。一方、祖母の青柳滝子(大地真央)は再生不良性貧血で床に伏せていることが増えていた。やつれていく滝子と呼応するかのように寂れていく青柳商店。かつては職人たちでにぎわっていた深川から男たちの姿は見えなくなっていた。世の中が暗くなっていく中、少しでも人々のためになるものをと考えた常子は、ユーモア特集を編集会議で提案する。

 ある日、常子は内務省に勤務する花山伊佐治から挿絵を受け取るために会いにいく。しかし花山は気難しい変人で、常子の話をまったく聞かず「帰れ。邪魔するな」と繰り返し言う。諦めて帰ろうとすると、今度は「本当に帰る奴があるか」といい、編集者ならいかなる手を使ってでも原稿や挿絵を書くようにしむけてみろと言う花山。常子は、賭けを持ちかけ「一時間以内に花山さんが書くか書かないか。私は書かない方に賭けます」という。常子の答えを気に入った花山はその場で挿絵を書き上げる。あとは発売を待つのみだったが、発売日当日、常子たちの雑誌はユーモア特集が政府の検閲に引っかかり編集長の谷誠治(山口智充)は警察に逮捕されてしまう。

 今週、何といっても見逃せないのが、常子が後に「あなたの暮し」をいっしょに創刊することになる花山伊佐次との出会いの場面だ。モデルとなっている花森安治と大橋鎮子が出会うのは戦後になってからだが、あえて戦時中に二人を出会わせたのは、内務省で標語を考える彼の仕事を見せたかったからだろう。

 編集者となる前、花森は、化粧品メーカーの伊東胡蝶園の宣伝部で広告デザインの仕事をしていた。その後、太平洋戦争に召集されるが疾病により除隊し、その後は大政翼賛会の外部団体に籍を置き、国策広告を決める仕事をしていたという。有名な「ぜいたくは敵だ!」という標語も、花森が関わったものと言われているが、花森自身があまり多くを語らなかったためか、戦時中の仕事については謎が多い。そういう時代だったとはいえ、戦争協力に加担するスローガンを関わっていた花村をどう描くのかは、本作の要となるもっとも重要なポイントだろう。

 今のところ唐沢寿明は、花山を目の前の仕事に没頭するエキセントリックな人物として演じており、そこに後ろめたさは一切ないように見える。面白いのは「進め一億火の玉だ」「臨戦態勢確立」といった勇ましい標語に混ざって「使って育てる代用品」という生活に根ざした言葉があること。まだ登場したばかりで真意が測りかねるところがあるが、激化していく戦争を前にして花村がどう変わっていくのか注目だ。

 一方で興味深いのは、戦争に対する常子たちの態度だ。鞠子が工場で働き、清が政府の会社で働くことを知った、三女の美子(杉咲花)が「あ~あぁ、早く勝たないかなぁ」、「日本が勝ったら戦争は終わるでしょ」と言う。「このところ、どこを歩いていても嫌になる」と美子は言うものの、そんな戦争をする日本に対する反発はない。朝ドラでは戦時中の描写が繰り返し描かれてきたが、しばしば現代の視点から、戦時下の日本はおかしいと言わせがちなのだ。しかし、本作では、あくまで戦時中の人々の意識に寄り添って描いている。

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