『デッドプール』が“R指定で最も売れた作品”となった理由ーー善悪を超えたヒーローの革新性

『デッドプール』の革新性とは

 本作『デッドプール』は、「アベンジャーズ」などのシリーズを制作するマーベル・スタジオでなく、「X-MEN」シリーズを制作している20世紀フォックスが作るマーベル映画である。DCコミックスと同様、映画会社に自社コミックの映画化権を売却して利益を得ていたマーベルだが、自ら映画制作に乗り出し、『アイアンマン』など自社が権利を持つヒーロー映画を制作しヒットを連発するようになったのは周知のとおりだ。やがてディズニーが親会社となったマーベル・スタジオは『アベンジャーズ』などで多くのヒーローを集結させるべく、一度は手放したいくつもの権利を買い戻し続け、ソニー・ピクチャーズとの共同制作というかたちで、スパイダーマン映画も条件付きで制作できるようになった。

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 確かにマーベル・スタジオは、自身がアメコミオタクでもあるケヴィン・ファイギ製作社長によって、原作の本来持っていた魅力を引き出すことで作品の質を保ってきた。しかし、ディズニーが親会社にいるマーベル・スタジオが仮に『デッドプール』を制作できたとして、果たしてそのまま作ることができたかというと、そこは疑問だ。俗悪過ぎる表現は排除されるか緩和されざるを得ないだろう。それはもはや本作とは別ものになってしまう。その意味では、権利問題という大人の事情が、結果的にデッドプールというヒーローの可能性を本質的に救うことになったといえるのだ。

 間違いなく続編が制作されるだろう『デッドプール』は、このまま下品、残酷、おバカ路線を貫き、作品世界を破壊し批評し続ける異端として、アメコミ映画界に刀を突きつける存在であってほしい。

■小野寺系(k.onodera)
映画評論家。映画仙人を目指し、作品に合わせ様々な角度から深く映画を語る。やくざ映画上映館にひとり置き去りにされた幼少時代を持つ。Twitter映画批評サイト

『デッドプール』海外版予告映像

■公開情報
『デッドプール』
6月1日(水)、TOHOシネマズ 日劇ほか全国ロードショー
監督:ティム・ミラー
出演:ライアン・レイノルズ、モリーナ・バッカリン、エド・スクライン、T.J.ミラー、ジーナ・カラーノ
配給:20世紀フォックス映画
(c)2016 Twentieth Century Fox Film Corporation. All Rights Reserved.
公式サイト:http://www.foxmovies-jp.com/deadpool/

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