シェイクスピア作品は“娯楽映画”の原点ーー現代的アプローチで描く『マクベス』の特徴

『マクベス』の本質的魅力に迫る

 かつてフランスで見世物として始まった映画は、以来、舞台や文学など既存の文化を取り入れながら、モンタージュなど映画独自の演出テクニックを開発し、目覚ましく進化・発展してきた。その過程で「純粋映画」や「表現主義映画」など、様々な方向で前衛的実験が行われている。だが、そのなかで大衆の心をつかみ、最も商業的な成功を収めた要素が、「映画の演劇的側面」である。黎明期のハリウッドは、ヨーロッパから舞台演出経験のある監督を何人も呼び寄せ、演劇としての大衆的な映画作品で観客を集めた。無声映画の時代が終わり、役者の音声が映画に追加されると、映像表現の方向性はさらに演劇的なものに傾いていったといえる。演技者の背後に見える風景は、舞台の書き割りのような記号的意味合いが与えられ、スクリーンに映る複雑な映像を、知覚的に明瞭なものにしている。極論をいえば、現在「映画」だと思われているものの多くは、本質的には「演劇」であるともいえるだろう。そう考えていくと、ハリウッド映画などが主導する現在の娯楽映画のルーツは英語圏の大衆演劇にあり、とりわけ代表的な存在であるシェイクスピア演劇に原点のひとつがあるということになる。

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 シェイクスピア演劇を現代的な視点で映画化するという行為は、劇映画の原点にある本能的な快楽や興味へと、我々観客を結び付け直す試みである。現代の映画を考えるとき、映画史全体のスケールのなかに作品を位置づけることで、一定の理解が深まるが、映画史以前のさらに大きな枠組みを設定することで、作り手も受け手も、より深く明晰に映画に立ち向かえるのではないだろうか。そのために、舞台や映画、書籍によってシェイクスピアの諸作に親しむことは、誰にとっても有意義であるだろう。

 ちなみに、本作のジャスティン・カーゼル監督の次作は、時代劇要素のある人気TVゲーム「アサシン クリード」の映画化作品である。本作からマイケル・ファスベンダー、マリオン・コティヤールがそのまま出演し、三作目にして制作費100億円を超える超大作を手がけるという、華々しい商業作家へと一気に転身を遂げたカーゼル監督の手腕を、本作『マクベス』でもじっくりと確認してほしい。

■小野寺系(k.onodera)
映画評論家。映画仙人を目指し、作品に合わせ様々な角度から深く映画を語る。やくざ映画上映館にひとり置き去りにされた幼少時代を持つ。

■公開情報
『マクベス』
TOHOシネマズ シャンテほかにて公開中
監督:ジャスティン・カーゼル  
原作:ウィリアム・シェイクスピア
出演:マイケル・ファスベンダー、マリオン・コティヤール、エリザベス・デビッキ、ショーン・ハリス
配給:吉本興業  
提供:アイアトン・エンタテインメント
(c)STUDIOCANAL S.A / CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION 2015
公式サイト:macbeth-movie.jp

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