『とと姉ちゃん』五週目で描かれた「嘘と本当」の意味ーー誰かの代わりを演じることの優しさ

 「嘘と本当」をめぐる心理的葛藤を、ここまで繰り返し描いているのを見ていると、嫌でもそこに過剰な意味を見出してしまう。「嘘と本当」というモチーフは人間描写においては「身代わり」という形で描かれている。その最たるものが、常子が亡くなった父の竹蔵(西島秀俊)に変わって、小橋家のとと(父)として振舞おうとしていることだろう。滝子に「(将来は)どうしたいんだい?」と言われた常子は、自分がどう生きるなんて考えたことがなかったと言うが、今後は少しずつ自分の人生と向き合うようになっていくのだろうか?

 また、常子が青柳商店にあるミシンを使おうとして若旦那の清にこっそり頼む場面で、君子と滝子の不仲を知らされた清は「そっか。実の娘でもそうなんだ。養子の私がわかりあうなんて、到底無理な話なのかなぁ」とつぶやく。今まで軽薄なお調子モノに見えた清が一瞬だけ見せる、養子ゆえの寂しそうな姿は妙に印象に残る。

 一方、星野の名前は武蔵(たけぞう)という、常子の父・竹蔵(西島秀俊)と同じ読み方だ。もしかしたら、帝大生で理屈っぽく説明する星野の存在は、常子にとっては恋人というよりは、父の変わりなのかもしれない。結局、武蔵がこぼした水を、長谷川(浜野謙太)が新聞紙で拭こうとして記事は見つかってしまい、ショックのあまり星野は気絶してしまう。そんな星野を励ますために、星野が飛騨高山出身だと知った常子は、おふくろの味を再現しようとして赤味噌のみそ汁を作ってあげる。星野は「これは、母のと同じだ」と言って喜ぶ。つまり、ここでは逆に星野の母親の代わりを常子は演じているのだ。

 本作では誰かが誰かの代わりを演じること、つまり、身代わり(偽物)として振舞うことが、人の優しさとして表現されている。

■成馬零一
76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)がある。

■番組情報
『とと姉ちゃん』
平成28年4月4日(月)〜10月1日(土)全156回(予定)
【NHK総合】(月〜土)午前8時〜8時15分
[再]午後0時45分〜1時ほか
公式サイト:http://www.nhk.or.jp/totone-chan/

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「国内ドラマシーン分析」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる