松江哲明が語る、フェイクドキュメンタリードラマ『おこだわり』の挑戦「テレビドラマの“グレーゾーン”を突いていきたい」

松江哲明『おこだわり』インタビュー

「役者たちが率先して面白いことにチャレンジしていくと、意欲的な作品も増える」

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――主演のふたりがセルフプロデュースしている部分も大きいんですね。

松江:役者が自らをプロデュースしていく作品は、もっと増えていいと思います。いまはパブリックイメージありきのキャスティングがあまりに多くて、それだと役者も面白くないですよね。山田孝之が『赤羽』を記録に残したのも、やはり自分をプロデュースしたいという意思があったからだと思いますし。90年代とか00年代初頭の日本映画って、監督の作家性がすごく出ていたんですよ。でも、作家主義が強すぎてお客さんのことをあまり見ていない作品も多かった。その反動から、『世界の中心で、愛をさけぶ』(2004)以降の日本映画は、テレビドラマの延長になってしまったり、原作が何万部のベストセラーだったり、いわば数字が見えている作品が増えていった。冒険している作品が減ってしまったんです。一方で、映画における役者の力は、以前よりも強まっています。いまは監督より原作より、どの役者が出るかが企画においてもっとも重視されています。そうなったとき、役者たちが率先して面白いことにチャレンジしていくと、意欲的な作品も増えるんじゃないかなと思います。

――今後、ドラマには斎藤工さんや大倉士門さんも登場しますよね。

松江:1話目は料理番組っぽい感じで、2話目はコントだったじゃないですか。3〜4話目では、素人とプロの俳優のアドリブ芸みたいなものを見せたので、5話目からはいよいよ視聴者も知っている著名人を登場させようと。斎藤工さんは原作とは関係なく、実際にすごい“おこだわり”を持っていて、清野さんの漫画に登場していてもおかしくないレベルなんですよ。視聴者が普通に知っているひとが、実はこんな一面を持っているというのを観せつつ、漫画の世界から少しずつ飛躍していこうと。今回は、自分が考えるフェイクドキュメンタリーというものをとことんまでやってみようと思っていて、観るほどにどんどん虚実の境目がわからなくなるような、いろんな仕掛けがあります。たぶん、最終回までずっとどう捉えて良いのかわからない番組になっているんじゃないかな(笑)。

――毎回、カオス感が増していくのも、連続ドラマだからこその表現だと感じています。

松江:ドラマの“見方”そのものを揺さぶるのは、映画よりテレビの方がやりやすいと思いますね。テレビっていうのは基本的にリアルタイムのもので、放送した瞬間が作品の完成なんですね。一方で映画は、すでに完成したものを観ているんです。みんな前評判とかを聞いて観に行ってるわけで、それはすでに過去の作品なんですよ。『おこだわり』は、そういうテレビと映画の違いをとりわけ意識した作品で、だからこそ当初から松岡さんが最終的にモーニング娘。になることを公表しているんです。プロデューサー陣からは当初、それはネタバレになるから言わない方がいいんじゃないかとの意見もありましたが、ドキュメンタリーにはそもそもネタバレがないんです。たとえば亡くなったひとのドキュメンタリーをつくったら、その人生をどう切り取ったとしても最終的にそのひとは亡くなります。つまり、ドキュメンタリーの面白さはそこに流れている時間だったり、登場人物の人間性にあるわけで、物語で勝負はしていない。松岡茉優がどうしてモーニング娘。に入ってしまうのか、毎週いろいろと思いを巡らせながら“追って”もらえたら嬉しいですね。

「テレビドラマの中ではギリギリのグレーゾーンを突いていきたい」

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――『おこだわり』もそうですが、最近の連続ドラマはその形式を活かした良作が多く作られている印象です。

松江:それはやっぱり海外ドラマの影響が大きいと思いますよ。あと、インターネット配信が浸透してきたことも、ドラマの見方を変えていると思います。『赤羽』をAmazon、Netflix、Huluに配信して驚いたのは、視聴者がテレビ放送のときと違う視聴の仕方をしていて、何話も一気に観たりするんですね。そうすると当然、求められるものも変わってくるのかなと。より連続ドラマとしての強度が求められるというか。僕も海外ドラマは好きでよく観ているんですけれど、ビリー・ボブ・ソートンやケビン・スペイシーなどが、映画ではできないような個性あふれる役柄で、じっくりと濃密にキャラクターを見せているんですよ。昨今の映画がなくしてしまった映画らしさが、いまのテレビドラマにはあるのかもしれません。実際、僕もこの企画はそもそも映画にしようとは思わないですからね。大規模でできる作品ではないし、かといって自主映画でやろうとも思わない。松岡さんや伊藤さんのキャラクターを切り取ろうと思ったら、やっぱりテレビドラマが向いています。

――松江監督は、今後もテレビに注力していくのですか。

松江:モノ作りをする以上、常に面白いことをしたいと考えていて、そのフィールドとしてテレビはやりがいがあると感じています。最近は世の中がすごくギスギスしていて、ちょっとしたことですぐに番組にクレームが入ったりするじゃないですか。でも、本当に怒っているひとってどれくらいいるのかなと思うし、視聴者は神様です、みたいな価値観に陥るとやっぱり面白いものは作れないと思うんです。顔の見えないひとの意見に左右されるより、自分が面白いと思うもの、スタッフやキャストの意見の方がずっと信頼できます。僕は表現をつまらなくする流れには抗っていたいし、だからこそテレビドラマの中ではギリギリのグレーゾーンを突いていきたいんです。「このドキュメンタリーはフィクションです」って言っちゃったりしてね。

(取材・文=松田広宣)

■放送情報
『その「おこだわり」、私にもくれよ!!』
毎週金曜深夜0:52〜1:23放送中
放送局:テレビ東京・テレビ大阪・テレビ北海道・TVQ九州放送
出演:松岡茉優、伊藤沙莉、清野とおる、斎藤工、モーニング娘。’16、大倉士門、八嶋智人ほか
脚本:竹村武司
監督:松江哲明
音楽:ナカザタロウ
オープニングテーマ:「人として」SUPER BEAVER([NOiD]/murffin discs)
エンディングテーマ:「みんな、おこだわってるかい?」ナカザタロウ
制作:テレビ東京/C&I エンタテインメント
製作著作:『その「おこだわり」、私にもくれよ!!』製作委員会
(c)『その「おこだわり」、私にもくれよ!!』製作委員会
公式サイト:http://www.tv-tokyo.co.jp/okodawari/

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