『ディアスポリス』プロデューサーが語る、ドラマと映画を同時に制作するメリットとその難しさ

『ディアスポリス』Pインタビュー

西ヶ谷「“監督のファン”を増やすことが日本映画には大切」

ーー映画の話でいうと、最近はメジャー大作にも映画として完成度の高いものが増えてきた印象を持っています。『ちはやふる』や『アイアムアヒーロー』は映画としても評価が高いです。

西ヶ谷:制作者側にも「このままではダメだ」という意識は当然あると思います。 “テレビドラマの映画化”と、“女子中高生向けの恋愛映画”が一定数の観客を呼んでいますが、次の一手を打たなければいけないタイミングであるのは確かで。『ちはやふる』や『アイアムアヒーロー』は作り手の勝負熱を感じました。なぜそうなったのかは、僕もちゃんと紐解いてみたいところです(笑)。ただ、日本の映画は制作委員会制度が強くて、責任の所在がよくわからないのは問題だと思います。『ちはやふる』がうまくいったのであれば、誰がどう関与したからそうなったのか、調べたいですね。

ーー最近、英国の映画製作・配給会社のアダム・トレル氏による、日本映画のレベルの低さを指摘する記事がネットを中心に話題となりましたが、こうした意見についてはどう考えていますか?(参考:今の日本映画にもの申す…「レベルが本当に低い!」 英映画配給会社代表が苦言

西ヶ谷:アダムも僕も、日本映画のクリエイターのレベルは高いと思っています。が、取り巻く環境が窒息状態、ということを言ってるのだと思います。あと人材でも昔から「適材適所」ができていないように感じることは多いですね。監督の特性と俳優の特性が、うまくマッチングしていなかったり。たとえば、日本のSFアニメは世界中でも通用するくらいセンスが良かったのに、実写となるとどうにもならない。SFマインドを持った才能はたくさんいるはずなのに、それを何かが遮っているんですよ。だからこそ、これからはプロデューサーの仕事が大切だと考えていて。ちょうど僕は偶然に、デビュー前の自主映画の監督としての冨永くんとか真利子哲也くん、助監督としての茂木くんとかに会っているんですけれど、彼らがこれから一線に出て行くときに、無様なものは作りたくないんですね。彼らと一緒に、これまでの日本映画にはなかった新しい何かを作って、“監督のファン”を増やすことが、これからの日本映画には大切なことなんじゃないかと思っています。

ーー誰が監督を務めているかで映画を選ぶということが、最近ではあまりなくなりましたね。

西ヶ谷:そうですね、ポスターに入る名前も小さくなっていますよね。洋画でさえその傾向は強くなっている気がします。宣伝もやたらと監督の名前を小さくしようとするんですね(笑)。もうタイトルと主演だけが印象に残るくらいに。でもそれだと一過性で終わっちゃうじゃないですか。あのひとの作品なら観てみたいっていうブランドを、もう一度作らなければダメですよ。そうじゃないと、永遠に“原作が何万部”というところにしか頼れなくなってしまう。

ーー西ヶ谷さん自身は、今後メジャー作品に挑戦する意思はあるのですか?

西ヶ谷:僕はもともとエンターテイメント志向なので、もちろんあります(笑)。ただ、偶然にも新人監督たちと一緒にやっていこうということで始めたので、これからという感じです。監督たちも40代になったら結婚をして子どもも生まれるんですよ。そうなると、自分の世界を追求するだけではなくて、マスに向けた勝負もしなくてはいけなくなる。だから、30代は徹底的にやりたいことをやってもらって、3作目くらいまでにいろんなところに顔を売って、40代ではそれを広く伝えられるように能力を発揮してほしいとは言っています。ちょうど今、熊切くんや冨永くんが、その世代にさしかかっている。彼らはすでに、ある予算規模では完全な作り手として成立しているんですが、次はそれをもっと大きなところでやってほしい。今回の『ディアスポリス』は、まさにそこに向かっていくためのチャレンジでもあると考えています。

ーー映画のビジネススキームは極端な世界で、黒字が出る作品は500万円とかで作ったローバジェットの映画か、もしくはテレビ局主体で数億円かけて興行収入10億円を目指すみたいな、その両極端になっています。その中間、たとえば8千万円くらいの規模で収益化するモデルは成立しないのでしょうか。

西ヶ谷:そこは仰るとおり、難しい問題です。実際に小中規模を狙って8千万の予算でやったとき、多くの場合は失敗しているので、企画書に添付する都合のいい資料が出せないんですよ。そうなると予算がどんどん減ってしまって、結果的に3~4千万で作ることになってしまう。だけど、その予算で成立するのは、スタッフ費をうんと抑えてやったり撮影日数をうんと削っていたりするだけなので、やはり適切ではないですよね。彼らがちゃんと食べれて、監督も俳優も最低限の時間をかけれるようにするには、最低でも7千万くらいの予算を用意しなくてはいけない。そうなると2~3億の興行収入を狙うわけですが、その成功例もあまりなくて。それができているとすれば唯一、西川美和監督の作品くらいで。彼女の作品はコンスタントに4~5億いっていて、だから逆に彼女の作品のときは4億いきますよといってお金を集めることができるわけです。

ーーそう考えると、今回の『ディアスポリス』は新しい資金調達の仕方なのかもしれません。最近はNetflixのようなサービスも新たなスキームを確立して、完成度の高いオリジナルドラマなどを制作していますが、それとは違う方法論で、テレビと映画をうまく組み合わせて展開しています。

横山:ドラマの放送内で映画の告知ができたり、作品認知という意味でドラマは宣伝としても非常に大きな力があると思います。2009年の作品を実写化するにあたり、あらためて作品を認知してもらう必要があるし、ファンだった読者にも気づいて貰う必要があるといった意味でドラマをやることには意義があります。また、この作品はパッケージにも向いている作品だと考えていますし、そういう作品は配信でも長く人に観られるコンテンツになるはずです。この仕組みを確立できれば、今後、さらに良い作品を世に送り出していけるかもしれません。

西ヶ谷:原作は面白いですし、コアなファンも多い作品ですが、決してミリオンセラーで超有名な作品ではなかったです。監督たちもまさにそう。この知る人ぞ知るという『ディアスポリス』が、言って見ればマニアックな原作とマニアックな監督との組み合わせがどんな結果を作るのか、今後も重要になってくると思っています。

■高根順次
スペースシャワーTV所属の映画プロデューサー。『フラッシュバックメモリーズ3D』、『劇場版BiSキャノンボール』、『私たちのハァハァ』を手掛ける。

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『ディアスポリス -異邦警察-』本日5月3日、TBSの第4話放送!
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■ドラマ情報
『ディアスポリス -異邦警察-』
ドラマ:MBS、TBSほか“ドラマイズム”枠にて放送
MBS 毎週日曜 深夜0時50分~/TBS 毎週火曜 深夜1時28分~
出演:松田翔太 浜野謙太 康芳夫 マリー / 柳沢慎吾 ほか
ゲスト:福島リラ 中村達也 夏帆 芦那すみれ KONTA
監督・脚本:冨永昌敬 茂木克仁 真利子哲也 熊切和嘉
脚本:守屋文雄 
原作:「ディアスポリス‐異邦警察‐」脚本…リチャード・ウー 漫画…すぎむらしんいち(講談社『モーニング』所載)

劇場版『ディアスポリス -DIRTY YELLOW BOYS-』は2016年9月3日 全国ロードショー

オフィシャルHP:www.dias-police.jp
オフィシャルTWITTER:https://twitter.com/dias_police

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