『ディアスポリス』プロデューサーが語る、ドラマと映画を同時に制作するメリットとその難しさ

『ディアスポリス』Pインタビュー

西ヶ谷「作品に統一感を与えるのは松田翔太さん」

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ーー今作は監督に映画畑のひとを起用しているのも特徴的ですね。

西ヶ谷:横山さんの企画書を読んだら、完全にエッジが効いている監督たちばかりを挙げていたので、これはもう彼の中でイメージが決まっているし、だからこそ僕に話を持ってきてくれたんだと感じたので、できるだけその意に沿うように候補を絞りました。特に今回、期待していたのは冨永昌敬監督と熊切和嘉監督の組み合わせなんですよ。僕の勝手な印象では西(大阪芸大)の熊切、東(日芸)の冨永で、両方ともこの世代のボス的存在で、後輩にも錚々たる監督たちがいる。その二人が一緒にやる企画で、しかも主演が松田翔太さん。考えただけでも面白い。けれど、かなり危険でもある(笑)。

ーーでは、映画監督でいこうというのは、横山さんの企画だった。

横山:誰がディアスポリスを撮ったら観たいかを会社の人間と意見を出し合っている中で映画監督以外は考えられませんでした。『ディアスポリス』をやるなら、やっぱりエッジの効いた人に集まってもらいたいなと。エイベックス・ピクチャーズはもともとアニメが強くて、それこそ「おそ松さん」なんかを作っているんですけれど、実写に特化した企画はなかったので、チャレンジできる分、自由度が高かったのかもしれません。

ーーちなみに第3話、4話では茂木克仁さんが監督でした。

西ヶ谷:彼は石井岳龍監督や沖田修一監督とかの助監督を務めてきて、僕は直近で新人監督のデビュー作を2連続でお願いしていて(岨手由貴子監督『グッド・ストライプス』、真利子哲也監督『ディストラクション・ベイビーズ』)そんな彼が監督を務めたらどうなるのか非常に興味がありました。アクションに関しては、「ディストラクション・ベイビーズ」でもアクションコーディネーターを務めた園村健介さんが務めていて。3話、4話ではそのコンビによって、よりエンターテイメント性の高いアクションシーンを観ることができるはずです。

ーー監督が全部映画監督で、毎話ごとに違う場合、作品の一貫性を保つのはやはり脚本になるのですか?

西ヶ谷:映画を撮るときは、監督が全部をコントロールをするわけですが、今回は監督も脚本も撮影監督もエピソードごと変わることになっていたので、じゃあ誰が作品に統一感を与えるかというと、主演俳優、つまりは松田翔太さんだと思うんです。例えば1話と2話が終わったときに、次の脚本を読んだら前の回の進み具合で、若干キャラクターが変わってることもある。そうなったとき、誰が指摘するかというと、松田翔太なんです。だから、毎回新しい監督になる前に、率先して監督とミーティングを行っていました。

ーー松田さんはその辺りも楽しんでやっているのですか。

西ヶ谷:今思えば、それぞれ強烈な個性のある監督たちと向き合って、作品としての一貫性を作り出さなくてはいけなかったので大変だったと思います。映画の場合では俳優が監督になにか意見を言うことなんてあまり見たことがなかったですけど、このテレビドラマの現場ではそれがなかったら回を追うごとに生まれてくる一貫性は生まれてなかったと思います。久保塚と鈴木のコンビの出来上がっていく感じとか。というか、テレビドラマのキャリアや経験値は松田さんのほうが圧倒的に上ですし、一番現場に居ましたし、本当に妥協なかったですね。

ーー本作は『私立探偵 濱マイク』の世界観を彷彿とさせますよね。いわゆる探偵モノの系譜にある作品で、そういう意味でも松田翔太さんが主演を務めるのは感慨ぶかいものがあります。

西ヶ谷:若い世代の俳優たちにとって、永瀬正敏さんの『私立探偵 濱マイク』は大きい存在なんだと今回しりました。松田さんも当然、意識していると思います。ただ、『濱マイク』も『探偵物語』を強く意識していたのではないでしょうか。探偵モノの遺伝子というのは脈々とあって、ロバート・アルトマン監督の『ロング・グッドバイ』(1973)と『ルパン三世』を合体させたのが『探偵物語』であって、その後に続く探偵モノの主人公はみんな、松田優作さんをどこかでモデルにしています。『ディアスポリス』も間違いなくその系譜に連なる作品ですよね。だから、この作品を映画化するとき、真っ先に松田翔太さんの名前が浮かんだんだと思いますが、正直、受けてくれるとは思わなくて。でも、声をかけたら『ディアスポリス』も連載当時に読んでいて、是非やりたいと言ってくれた。多分探偵物のアイデアも色々持っていて、実際、現場でも良いアイデアをたくさん出してくれています。

ーーなるほど、そういった面でも新鮮な取り組みですね。最近のテレビドラマを観ていると、『ディアスポリス』以外にもチャレンジングな企画が目立つように感じています。その辺はどう考えていますか。

西ヶ谷:最近はゴールデンと深夜はそれぞれ別物として確立されてる感じですが、深夜枠の制作費が下がっていることも影響していると思います。実際真っ当なドラマを作るような予算ではないですし。なので、逆に自由度が上がっているのか、アグレッシブでなければ成立しないし、存在意義がないというか。個性的なクリエイターと個性的な俳優たちのチャレンジの場として機能しているのではないでしょうか。自分の勝手なイメージで、映画でいうと、ゴールデンはメジャー作品で、深夜は単館係、みたいな。深夜は予算縛りはあるけれど、好きなことやっていいという、昔でいうと、ロマンポルノを作っているような自由な雰囲気があるというか(笑)。

ーー深夜の場合は数字というより、いわゆるソフト化したあとの収益を重視している感じもありますよね。

西ヶ谷:ソフトありきでしょうね。本当にチャレンジ枠で、バラエティにおいてもそうじゃないですか。うまく成功のパターンが生まれたら、ゴールデンに上げていくみたいに。逆にゴールデンはお金はあるけれど数字のことについては前より話題のネタになってしまっていますし、中身も誰でも安心して観れるものにしなければいけない。これはドラマ作りするには大変だと思います。

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