>  > 小野寺系『レヴェナント:蘇えりし者』評

『レヴェナント』復讐の旅の果てにあるものーー過酷な大自然の中に描かれた人間の内面世界

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 ジョン・フォード監督の『三人の名付親』は、同じように信仰をテーマとした西部劇だ。三人のならず者が灼熱の砂漠に迷い込み、そこで死に瀕している女に赤ん坊を託され、命を懸けて運ぶ。この三人と赤子は、新約聖書に書かれている東方の三賢者とキリストを暗示している。アメリカの厳しい自然によって一人ずつ倒れていくならず者達。最後の一人になった男は、ついに力尽きて倒れると、聖書を放り出し悪態をつく。命を投げ出して他者を救うという尊い行為をしているにも関わらず、神は何もしてくれないのだ。だが、聖書に書いてあった通りの奇跡が起こり、彼は信仰心を取り戻すことになる。グラスの内面の旅がたどり着いたのも、信仰の回復である。だが本作が『三人の名付親』と異なるのは、キリスト教への信仰に回帰するのではなく、アメリカ先住民の教えに安らぎを見出すという点だ。

 本作の夢のシーンでは、入植者達がアメリカン・バッファローを絶滅させた事実が、骨の山としてイメージ化されている。そのように自然を回復不能にまでしてしまうというのは、自分と自然を明確に切り離し、自分の幸せを追求するからであろう。対して、ここでの先住民の世界観は、自分を自然の一部ととらえ一体化していく感覚のなかにある。先住民の男が語った、復讐を自然の運命にまかせるという価値観は、自分と自然の境界が曖昧であるからこその発想である。そして自分が自然と溶け合っていくことで、自分の境遇に不満を感じ、神の存在を疑うという、キリスト教につきまとう根源的な悩みからも解放されるだろう。先住民の生き方を理解することで、本作におけるグラスの内面の旅は終わり、彼はついに救いを見つけるのである。

 『バードマン』でドラマーのアントニオ・サンチェスのソロによる即興演奏を全編で使用するという荒業的演出で、際立った音楽センスを見せつけたイニャリトゥ監督は、今回は坂本龍一に本作の音楽を依頼している。ここでも監督のセンスが光っていると思えるのは、本作の楽曲が分かりやすいオリエンタリズムを排したものになっていることもそうだが、監督自身が生の楽器と電子音を融合したサウンドを希望したという事実からも感じられる。坂本龍一とアルヴァ・ノトによる微細な音響世界は、無駄な音が省略された、弦楽器による抽象的旋律と、人工的に生み出した電子音などが混然となり、映画音楽として非常に挑戦的なものとなっている。監督が選び取った、デジタルとアナログという異質な音が「溶け合う」音の世界は、本作のテーマを紐解く手がかりになっているように思える。

■小野寺系(k.onodera)
映画評論家。映画仙人を目指し、作品に合わせ様々な角度から深く映画を語る。やくざ映画上映館にひとり置き去りにされた幼少時代を持つ。Twitter映画批評サイト

■公開情報
『レヴェナント:蘇えりし者』
公開中
監督:アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ
脚本:マーク・L・スミス アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ
撮影:エマニュエル・ルベツキ, ASC/AMC
オリジナル・ミュージック:坂本龍一、アルヴァ・ノト
出演:レオナルド・ディカプリオ、トム・ハーディ、ドーナル・グリーソン、ウィル・ポールター、フォレスト・グッドラック
(c)2015 Twentieth Century Fox Film Corporation. All Rights Reserved.
公式サイト:http://www.foxmovies-jp.com/revenant/

      

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