クドカン初の社会派ドラマ『ゆとりですがなにか』は、“ゆとり世代”の不安定さをどう描く?

 しかし『ゆとりですがなにか』は、笑える場面は多いが、画面から受ける印象は実にシリアスで、今までのクドカンドラマとは違うものを感じる。チーフ演出は水田伸生。最近では『Mother』や『Woman』(ともに日本テレビ系)といった坂元裕二脚本の社会派ドラマで知られている。宮藤のドラマは、2003年の『ぼくの魔法使い』(日本テレビ系)以来13年ぶりだが、『舞妓Haaaan!!!』、『なくもんか』、『謝罪の王様』といった阿部サダヲ主演の映画でチームを組んでいる。宮藤は本作を「コメディ要素はあったとしても、今回はあくまで“社会派ドラマ”です」と言っており、以前から、水田が坂元と組んだ『Mother』のようなドラマをやってみたかったと語っている。(参考:4月15日ORICONニュース「宮藤官九郎、初の“社会派ドラマ”に手応え「新鮮」 得意技も封印し役者で勝負」

 そのためか、前クールに坂元裕二が手掛けたドラマ『いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう』(フジテレビ系、以下『いつ恋』)と、ついつい比較したくなってしまう。『いつ恋』の登場人物は2016年の時点で20代後半くらいだったが、年齢的には本作の主人公と、ほぼ同世代だろう。宮藤がどこまで、坂元を意識しているのかはわからないが、『いつ恋』で象徴的なモチーフとして描かれていた「人身事故で電車が止まる」という場面が、本作でも描かれている。『いつ恋』では、人身事故のアナウンスに舌打ちする人に対して、哀しい気持ちになる主人公の内面を、繊細で美しいものとして描いていたが、宮藤の場合は、SNSの反応や正和の妹・ゆとり(島崎遥香・AKB48)の「ちょっと勘弁してよ」という台詞に見られるように、少し突き放したニュアンスとなっている。

 だが一方で、後輩が自分のせいで自殺したかもしれないという正和の不安は、ゆとり世代の問題は「決して、他人事ではない」という気持ちの表れにも思える。若者ではなくなりつつある正和たちは、自分より年下の繊細で傷付きやすい若者たちと、どのように向き合っていくのか。それは、新鋭若手作家として若者向けドラマを書き続けてきた70年生まれの宮藤が、中堅作家となった今、自分よりもはるかに若い「ゆとり世代」を、どのように描くのかという問題意識とも重なっている。

■成馬零一
76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)がある。

■番組情報
日本テレビ新日曜ドラマ『ゆとりですがなにか』
4月17日(日)22:30スタート
出演:岡田将生 松坂桃李 柳楽優弥 安藤サクラ 吉田鋼太郎
脚本:宮藤官九郎
「ゆとりですがなにか」公式サイト

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