岩井俊二『リップヴァンウィンクルの花嫁』“3時間の長尺”から伝わる意志

岩井俊二が長尺で描きたかったもの

 大げさに言うのなら、本作は、「日本で、映画は、暇つぶしの娯楽でしかないのか、芸術作品たり得るのか」という、ある種の古典的な問いかけを行っているのだ。古めかしい言い方をすれば、商業主義VS作家主義といった構図の話になる。

 1950年代後半から始まるフランスの「ヌーベルバーグ(新しい波という意味)」運動や、1960年代のアメリカにおける「アメリカン・ニューシネマ」の勃興など、巨大資本による娯楽ではなく、作家個人の芸術として映画を成立させてきた流れがある。日本でも、1960年代から、ATG(日本アート・シアター・ギルド)によって同様の動きがあり、大島渚・新藤兼人・今村昌平・市川崑・鈴木清順・寺山修司・田原総一朗らが、作品を発表してきた。

20160328-rip_sub1-th.png

 

 どのような映画も興行に依って立つ以上は、非商業主義ということはあり得ないわけで、じゃあ作家主義とは何かと問われれば、(低予算で暗く重い難解な作品ということでもなく、知名度のある監督の作品ということでもなく)「作り手が鑑賞者の価値観を揺さぶる意思を強く持っていること」と言えるのではないか。そういった意味では、『リップヴァンウィンクルの花嫁』は間違いなく、作家主義的な作品と言えるだろう。とはいえ、本作に限らず、岩井俊二作品は間口が広く、価値観をグリグリと強引に揺さぶってくる作風ではないので、気軽に、観てみて欲しい、3時間を覚悟して。(本作が商業的に大きな成功を収めることで、ややもすれば閉塞しがちな状況に、新しい局面が少し生まれるかもしれない)

■昇大司
1975年生まれ。広告代理店にて、映像作品の企画などを行う。好きな映画は『アマデウス』『ラストエンペラー』『蜘蛛巣城』など。Twitter

■公開情報
『リップヴァンウィンクルの花嫁』
2016年3月26日公開
監督・脚本:岩井俊二
出演:黒木華 綾野剛 Cocco 原日出子 地曵豪 毬谷友子 和田聰宏 佐生有語 夏目ナナ 金田明夫 りりィ
原作: 岩井俊二『リップヴァンウィンクルの花嫁』(文藝春秋刊)2015 年12 月4 日発売
制作プロダクション:ロックウェルアイズ
(c)RVW フィルムパートナーズ(ロックウェルアイズ 日本映画専門チャンネル 東映 ポニーキャニオン ひかりTV 木下グループ BSフジ パパドゥ音楽出版)
公式サイト

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「作品評」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる