『アーロと少年』はなぜ圧倒的リアリズムで“自然”を描いた? アメリカ西部劇との共通点から探る

『アーロと少年』息づく西部劇の魂

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 『赤い河』との共通点は、テーマやストーリーばかりではない。『赤い河』が観る者の心を打つのは、アメリカの雄大な大自然のなかを、本物の牛の大群が駆け巡る映像に、迫力と詩情を感じるからでもある。とくに驚かされるのは、画面いっぱいに広がる空を埋め尽くす雲、そして丘を染める雲の影の動きの美しさである。

 『アーロと少年』では、湧き上がる雲、風に揺れる木々、農場の柵にできる影など、実写と見紛うほどのハイパーリアリズムで画面が構築されている。とくに雲の表現では、「クラウド・スーパーバイザー」という選任の役職まで設け、絶えず千変万化する雲の動きによって、間違いなくアニメーション史上最高の美しい空を作り上げ、今までのピクサー作品以上に、鬼気迫るほど見事に「自然」を再現している。そして、一草一葉が風に揺らぎ、川の水流は岩にぶつかり複雑に絡まりながら流れていくように、目に映る全てのものが動くキャラクターとして、登場人物たちと画面の中で等価の扱いになるという、真の意味での「フルアニメーション」と呼べる世界が造り上げられている。そしてその情熱は、『赤い河』を筆頭とする正統的なアメリカ西部劇が目指してきた、自然へのおそれと美を追求する姿勢と同じものである。

■小野寺系(k.onodera)
映画評論家。映画仙人を目指し、作品に合わせ様々な角度から深く映画を語る。やくざ映画上映館にひとり置き去りにされた幼少時代を持つ。Twitter映画批評サイト

『アーロと少年』本編映像

■公開情報
『アーロと少年』
全国公開中
監督:ピーター・ソーン
製作:デニス・リーム
製作総指揮:ジョン・ラセター
原題:The Good Dinosaur(全米公開:2015年11月25日)
配給:ウォルト・ディズニー・スタジオ・ジャパン
(c)2016 Disney/Pixar. All Rights Reserved.
公式サイト:http://www.disney.co.jp/movie/arlo

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