ピクサー神話に異変!? 『アーロと少年』、2週目『ドラえもん』にダブルスコアで敗れる

 実際、『アーロと少年』の仕上がりも、その悪影響が出ているのではないかと邪推せずにはいられないのだ。聞くところによると、あのピクサー特有のたっぷりと時間とお金と才能を投下した10数人による脚本の分業体制が、近年少しずつ効率化されてきているという。映像のアイデアとその精度においては相変わらず圧倒的なピクサー・クオリティの『アーロと少年』だが、ゼロから作り直したというにもかかわらず(もしかしたらそれが逆効果となって)脚本の完成度という点ではピクサー作品らしからぬ綻びを個人的には感じてしまった。結果的に、『アーロと少年』の現段階における世界興収は、1995年に『トイ・ストーリー』で始まったピクサー長編作品20年の歴史上最低の記録となっている。

 また、『ファインディング・ニモ』の続編『ファインディング・ドリー』、『Cars 3』(原題)、『Coco』(原題)、『Toy Story 4』(原題)、『The Incredibles 2』(原題)と、今後公開が予定されているピクサー作品の5作品中4作品までもが、人気シリーズの続編であるというのも気になるところ。映画というジャンルにとどまらず、アメリカのクリエイティヴィティの頂点として語られることも多かったピクサーに、現在、一体どのような変化が起こっているのか? ゼロ年代前半の低迷期から完全に脱したウォルト・ディズニー・アニメーション・スタジオ作品とのパワーバランスも踏まえつつ、今後の趨勢に注目していきたい。

■宇野維正
音楽・映画ジャーナリスト。「リアルサウンド映画部」主筆。「MUSICA」「クイック・ジャパン」「装苑」「GLOW」「NAVI CARS」ほかで批評/コラム/対談を連載中。著書『1998年の宇多田ヒカル』(新潮新書)発売中。Twitter

■公開情報
『アーロと少年』
公開中
監督:ピーター・ソーン
製作:デニス・リーム
製作総指揮:ジョン・ラセター
原題:The Good Dinosaur
全米公開:2015年11月25日
配給:ウォルト・ディズニー・スタジオ・ジャパン
(c)2016 Disney/Pixar. All Rights Reserved.

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