『いつ恋』いよいよ佳境へーー第八話で描かれた練、音、朝陽の濃密な三角関係

 『いつ恋』では本音を話す時に人は方言になる。お互いが好きなものについての話や福引の懸賞の話をしながら、音は誕生日のプレゼントに練の似顔絵を書く。この回を担当したチーフ演出の並木道子は、アパートの部屋のような閉鎖された場所でのやりとりを描くのが実にうまい。普通なら役者に部屋の中を歩かせたり、カメラアングルを変えることで絵が退屈にならないようにするものだが、脚本の会話劇を最大限に活かすために、もっともシンプルで力強い見せ方を選び、二人の距離が縮まっていく姿をじっくりと見せていくのだ。

 そして、「多数決があったら毎回駄目な方です」と語る音に「多数決が何回あっても俺は杉原さんのところにいます」と練は返す。音は母が亡くなった時に見た空の色の話をする。あの時みた空の色のことは誰にも伝わらないと思って人に話したことがなかった。でも、練ならわかってくれると思ったのだろう。話を聞き終えた練は「杉原さん。好きです」と告白する。エンディングテーマがかかり余韻に浸っていると、ガチャという扉が開く音がする。振り返る音。そこには朝陽が立っていた。と、ここで第八話は終了。

 演出自体はホラー映画のようだが、これぞ恋愛ドラマという見事な引きである。

 さて、練、音、朝陽の三角関係が濃密に描かれる一方、気になるのは中條晴太(坂口健太郎)の描かれ方だ。晴太は、軽薄だが何を考えているかわからないミステリアスな存在感で物語を混乱させるトリックスター的な役割を果たしていたのだが、この第八話では過去に自分がおこなった振る舞いが練と市村小夏(森川葵)を傷つけてしまったことに罪悪感を抱いているようだ。震災を挟んで晴太も変わったのだと、言ってしまえばそれまでだが、他のキャラクターに較べると若干説明不足に思える。もしかしたら、晴太の物語は最終話に温存しているのかもしれないが、せっかく魅力的なキャラクターとなっているので、何とか描き切ってほしい。

参考1:『いつ恋』第一話で“男女の機微”はどう描かれた? 脚本家・坂元裕二の作家性に迫る
参考2:『いつ恋』第二話レビュー “街の風景”と“若者の現実”が描かれた意図は何か
参考3:『いつ恋』第三話レビュー 先が予想できない“三角関係”をどう描いたか?
参考4:東京はもう“夢のある街”じゃない? 『いつ恋』登場人物たちのリアリティ
参考5:『いつ恋』音はなぜドラマ名を口に?  脚本家・坂元裕二が描く「リアリズム」と「ドラマの嘘」
参考6:『いつ恋』が浮き彫りにする、男たちの弱さーー5年の月日は練たちをどう変えた?
参考7:『いつ恋』第七話で“花”と“レシート”が意味したものは? 映像の向こう側を読み解く

■成馬零一
76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)がある。

■ドラマ情報
『いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう』
2016年1月18日(月) 21:00~放送開始
出演者:有村架純、高良健吾、高畑充希、西島隆弘、森川葵、坂口健太郎
脚本:坂元裕二
プロデュース:村瀬健
演出:並木道子
制作:フジテレビドラマ制作センター
公式サイト:http://www.fujitv.co.jp/itsu_koi/index.html

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