女性同士の恋愛と自立を描く『キャロル』の、“赤色”に込められた深い意味

『キャロル』における“赤色”の意味

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 さらに特筆すべきは、この映画はとにかく「赤」が目立つということだ。全編を通してかなり多くのカットの中に、必ず「赤」という色が入り込むのである。衣装や口唇の紅やネイルなどはもちろんのこと、クリスマスシーンズンを映し出した前半のシークエンスではサンタ帽が象徴的に扱われる。さらに、序盤にルーニー・マーラ演じるテレーズが窓から外を見下ろすシーンで何気なく地面に転がっているボールでさえ、幾つかの色を持っているにも関わらず、キャメラの方を向いているのは「赤色」なのだ。

 同じように女性同士の恋愛を描き、2013年のカンヌ国際映画祭で話題になったアブデラティフ・ケシシュの『アデル、ブルーは熱い色』で、タイトルにもなるほど作品を象徴していた「青」は製作国フランスのトリコロールで「自由」を表す色である。対して『キャロル』は英米合作であるが、舞台となるアメリカの星条旗において、「赤」は「勇気」を表すという。これはまさに主人公の二人のそれを示しているのではないだろうか。また、一説では「赤」はイギリスであり、共にストライプを為す「白」は「その支配からの独立」を示しているとも言われている。つまり「赤」には「抑圧」の意味も込められているのだ。

 キャロルの姿をテレーズがカメラで撮影するシーンがあるが、そこでは白い雪が降り注ぐのである。二人でいる時間に訪れる、抑圧からの一時的な解放を表すそのカットにはまだ「赤」が根強く残っているが、中盤で二人が旅に出た途端、「赤」は急に画面の中で主張をやめる。ところが、キャロルが自分の元から去ったことを知ったテレーズが、手紙を読むシーンで突然画面の中央に「赤」のダイナーの看板が現れるのである。その瞬間に、テレーズは再び窮屈な生活に引き戻されるのだ。

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 終盤で調停の場から立ち去るキャロルは、それまでのような真紅の口唇ではなく、そして「白」の衣装を身にまとう。その時点で、キャロルはすでに「独立」することに成功したのであろう。対してテレーズの方は、最後まで「赤」と「白」の狭間で彷徨い続ける。終盤でキャロルと再会するシーンで、テレーズを映し出した背後には椅子や絨毯の「赤」がつきまとうが、キャロルにカットバックするとテーブル上のランプと花の「白」が映し出されることによって、二人の大きな距離感が明らかになってしまうのである。テレーズがキャロルに向かってゆっくりと歩いてくるラストシーンで、二人の間を赤い服を着た女性が通り過ぎ、赤いランプが置かれているのを見ると、最後の長い暗転に思わずため息が出てしまうであろう。

■久保田和馬
映画ライター。1989年生まれ。現在、監督業準備中。好きな映画監督は、アラン・レネ、アンドレ・カイヤット、ジャン=ガブリエル・アルビコッコ、ルイス・ブニュエル、ロベール・ブレッソンなど。Twitter

■公開情報
『キャロル』
2016年2月11日(木・祝)より、全国ロードショー
監督:トッド・ヘインズ
出演:ケイト・ブランシェット、ルーニ・マーラ
原作:河出文庫「キャロル」パトリシア・ハイスミス著
配給:ファントム・フィルム
(c)NUMBER 9 FILMS (CAROL) LIMITED / CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION 2014 ALL RIGHTS RESERVED
公式サイト:http://carol-movie.com/

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