自分と異なる他者を受け入れることはできるのか 『ディーパンの闘い』が描く難民問題と家族愛

『ディーパンの闘い』が描く家族愛

 このむさ苦しい風貌をしたディーパンという男が、どうしてこんなに魅力的に映るのか。それは演じている本人が、ディーパンと同じような境遇を辿っているからでもあろう。少年兵として戦い、逃亡先のタイで四年間を過ごし、フランスに亡命。その後、スーパーマーケットの従業員、ハウスキーパーなど、様々な職を転々とし、作家となった。演技は未経験である。これがディーパンを演じたアントニーターサン・ジェスターサンの経歴だ。そして彼を含め、家族となっている三人は映画初出演と言うが、その堂々たる自然な演技にも驚かされる。三人の姿は時が追うごとに 、本当に心を通わせた家族のように見えてくる。共に試練を乗り越えてきたからこそ、生まれた絆なのだろう。

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(c)2015-WHY NOT PRODUCTIONS - PAGE 114 - FRANCE 2 CINEMA - PHOTO: PAUL ARNAUD

 オディアール監督は「完全に未知なる外国人俳優たちと映画を撮り、時間を共に過ごすことで脚本が変化し、彼らの内部と彼らの関係性が進化した」と語っている。撮影を通し、言葉や人種を越えた相互理解が生んだ、最高の化学反応とも言えるだろう。私も本当は、人間が生きていく上で、言葉や人種は関係ないはずだと思っている。戦士と民間人、互いを理解しえない関係であったはずのディーパンとヤリニ。エンドロールに流れる、ディーパンの髪を優しくなでる、ヤリニの手を切り取っただけの映像が、この映画のすべてを物語っているような気がした。

『ディーパンの闘い』予告篇
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■大塚 シノブ
約5年間中国在住の経験を持ち、中国の名門大学「中央戯劇学院」では舞台監督・演技も学ぶ。中国・香港・シンガポール・日本各国で女優・モデルとして活動していたが、芸能以外の活動を広めるため芸能活動を一時休止。今年から新たなビジネスを始め、中国等での活動も再開予定。

■公開情報
『ディーパンの闘い』
公開中
監督・脚本:ジャック・オディアール
脚本:ノエ・ドブレ、トマ・ビデガン
出演:アントニーターサン・ジェスターサン 、カレアスワリ・スリニバサン、ヴァンサン・ロテ ィエ、カラウタヤニ・ヴィナシタンビ
配給:ロングライド
(c)2015-WHY NOT PRODUCTIONS - PAGE 114 - FRANCE 2 CINEMA - PHOTO: PAUL ARNAUD
公式サイト:www.dheepan-movie.com

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