MAGiC BOYZ主演『イカれてイル?』が描き出す、ネット動画時代の自意識と暴力

MAGiC BOYZ『イカれてイル?』評

 本作のキーワードである「中二病」という言葉は、大人が思春期の恥ずかしいエピソードを語る失敗談として、今ではかなり軽いものとなっている。しかし、楓万の「中二病」は、現在進行形のものだからか、見ていて痛々しいものがある。それは、神聖かまってちゃんのの子を初めてみた時に感じた、思わず目をそらしたくなるようなヒリヒリとした感覚と似ている。作中では、ドローンを無許可で飛ばして逮捕された少年の事件が引用されているのだが、実際の事件をアイドル映画に持ち込む大胆さは、長谷川和彦の『青春の殺人者』を筆頭とするATG(日本アート・シアター・ギルド)で制作されていた荒々しい青春映画を彷彿とさせるものがある。

 とは言え、かつての青春映画と『イカれてイル?』が決定的に違うのは、インターネットの存在だろう。以前なら個人の妄想として完結していた少年の自意識は、ネットを通して拡散され、無数の支援者や模倣者が関わることで、妄想は個人の自意識を超えた複合的なものへと姿を変えていく。竹内は、ネットの力で絶大な人気を獲得していくアイドルやミュージシャンといったカリスマ的存在と、彼らを撮影することでネット上に動画を拡散していく撮影者の物語を繰り返し描いてきた。それは、神聖かまってちゃんを撮ることで、世に出ることになった自分自身の姿でもあるのだろう。

 『イカれてイル?』もまた、「撮る/撮られる」という関係を描いた映画だ。しかし、過去作に較べると「撮る側」の問題意識が強く現れている。印象に残るのは、誰もが自由にカメラを持ち自由に撮影するのに、自分が撮られる側に回ると「撮らないでよ」と顔を隠す場面が繰り返し登場すること。簡単に撮影して映像をネットに上げることができるからこそ、「撮る」という行為がいかに暴力的なものかについて、誰もが自覚的なのだ。「イエーイYouTube!」という軽薄な言葉の裏に隠された誰もが映像の送り手になることができる時代の可能性と暴力性を、本作は容赦なく描き出している。

MAGiC BOYZ初主演映画「イカれてイル?」予告編

■成馬零一
76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)がある。

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■公開情報
『イカれてイル?』
公開中
出演:MAGiC BOYZ(フウト、トーマ、リュウト、ユウト、マヒロ)
北山詩織、KENZO(DA PUMP)、伊地知大樹(ピスタチオ)、佐野愛夏、NIPPS、D.O(練マザファッカー)、MARIA(SIMI LAB)、VIKN、nabepro、やついいちろう、CQ、DJ MASTERKEY、MACKA-CHIN、DOTAMA、ハハノシキュウ、小澤慎一朗(ピスタチオ)、ブラザートム(特別出演)
監督・脚本:竹内道宏

公開スケジュール

2/6(土)~2/14(日):ユナイテッド・シネマ豊洲

2/20(土)~2/26(金):ユナイテッド・シネマキャナルシティ13

2/27(土)~3/4(金):ユナイテッド・シネマ札幌

3/5(土)~3/11(金):ユナイテッド・シネマ豊橋・岸和田

(C)2016「イカれてイル?」製作委員会

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