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安藤サクラの演技は“暗闇の中のジェットコースター” 女優・大塚シノブが圧倒的な個性に迫る

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女優
安藤サクラ
新井浩文
日本アカデミー賞
武正晴
百円の恋
邦画
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 映画『百円の恋』で自堕落な女がボクシングと恋を通して成長していく様を好演し、本年度の日本アカデミー賞「優秀主演女優賞」に選ばれた安藤サクラ。『愛のむきだし』『ケンタとジュンとカヨちゃんの国』『かぞくのくに』『0.5ミリ』など、数々の作品で高い評価を得ている彼女の魅力は、どんなところにあるのか。同じく女優として活動する大塚シノブが、その魅力を探る。

 安藤サクラ、私は彼女の存在が好きだ。演技を多少なりとも知っていると、それを語るのはおこがましい気もする。なので本来、役者評は書きたくないと思っていたのだが、彼女については別だ。それでも書いてみたい!と思ってしまう。彼女を見ていると、もちろん役者ではあるのだが、なぜかアートでも見ているような感覚にもなる。そしてなぜか最高!天才!と毎回叫びたくなる。音楽で例えると、ジャンルで言うならパンクみたいなところだろうか。クラシックでもポップスでもなく、決して万人受けではないかもしれないけれど、コアなファンも多いのではないかと思う。

 今の時代、演者に求められているのは個性である。多くの作品が出回る中、観る側の目も肥えてきて、予定調和の演技ではどこか飽き足らなくなってきている。分かる人には、それが分かってしまう。だからこそ、顔面、雰囲気先行の傾向がある中で、突出した個性を持っている者は強い。彼女の魅力は、そのうらやましいほどに圧倒的な、唯一無二な個性だろう。顔面偏差値が高い女優は多いが、演技に個性のある女優は圧倒的に少ない。しかも彼女の場合、その個性は作りものの個性ではなく、魂から湧き出てくるような個性なのである。それは、俳優で映画監督の父、エッセイストの母、映画監督の姉の下で育った所以なのだろうか。

 園子温監督の『愛のむきだし』で彼女の存在を初めて知った。新興宗教団体教祖の右腕の女を、異様な存在感で演じていて興味を持った。そしてそれ以降、様々な映画やドラマで目にするようになった。この人は、何を演じていても面白い。語弊があるかもしれないが、この面白いの意味は、興味を惹くという意味だ。この人が、この後この先、どんな行動を起こすのか、何をしでかすのか、とてつもなく知りたくなる。映画が終わっても、この人の演じる役の日常を、ずっと追いかけて見ていたくなる、癖になる感じがあるのだ。例えば目の前に何を考えているのか分からない、反応の変わった友達がいて、それを目で追っているような感覚。見ていて飽きない。これはいい役者の一つの共通点でもあるように思う。

 安藤サクラの演技には、暗闇の中のジェットコースター的魅力がある。先の見えているジェットコースターでは、次落ちるのか、曲がるのかということが明確に分かる。しかし、暗闇のジェットコースターには、先が分からない面白さがある。映画を観ていると、演者が次どんな演技をするのか、想像がついてしまったりすることが多々ある。その反応は、きっと用意されていただろう選択肢の中の一つだったりする。ただこの人にはそれがない。予定調和を破壊し、毎回、別の方向から攻めてくる。しかもそれが間違いではないというのがすごい。ここまで振り切って演じられる女優は珍しく思う。全てから解き放たれているようで、見ていて気持ちがいい。演技に対する怖さが全くないというか、何にでも勝てるような強さというか。とにかく非凡な感じがいい。

 ここ数年で、彼女が演じた中で特に印象的だったのが、『百円の恋』。自堕落な生活を送っていた32歳の一子が、あるボクサーと出会い、うまくいかない恋をするうち、衝動的にボクシングを始め、それに没頭していくという話。しかもこれはオーディションで勝ち取った役だと知って驚いた。だらけた顔にたるんだ肉体、それがボクシングを始めて見事にしまっていく。そしてボクシングに没頭し、立ち向かっていく一子が何よりかっこいい!その闘志は、まるでロッキーのようだった。

     
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