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ジョン・ヒューズ作品はなぜ今も愛され続ける? 80年代を代表する青春映画監督が残したもの

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鶴巻忠弘
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 80年代を代表する脚本家/監督/プロデューサー、ジョン・ヒューズが残した名作のひとつ『プリティ・イン・ピンク/恋人たちの街角』が1986年に公開されてから今年で30周年を迎え、2月にアメリカで特別上映されることになった。“ゾイド”と呼ばれる低所得階級の少女アンディ(モリー・リングウォルド)と“リッチー”と呼ばれる富裕層の青年ブレイン(アンドリュー・マッカーシー)、そしてアンディに心を寄せる幼馴染のダッキー(ジョン・クライヤー)の3人の男女の階級差を超えた恋愛事情を描いた秀作として知られ、初公開から30年たった今もなお世代を超えて愛され続けている青春映画だ。

 それまでビリー・ジョエルのミュージック・ビデオや、ヒューズ作品の『すてきな片思い』(84)や『ブレックファスト・クラブ』(85)の予告編を作ってきたハワード・ドイッチにメガホンを譲り、ヒューズ自身は脚本と製作にまわった。また今回の特別上映では、未公開シーンや幻のオリジナル・エンディングも初公開されるという、長年『プリティ・イン・ピンク』を追いかけてきたファンにとっては嬉しい企画だ。10年前にアメリカ本国でリリースされた20周年記念版DVDの特典ドキュメンタリーで明らかになった、リサーチ試写の結果、半年後に再撮影された劇場公開版のエンディングとは全く異なる結末がようやく観られるという。

 広告代理店出身で、後にジョン・ランディス監督の『アニマル・ハウス』(78)や、ヒューズが脚本を書き、ハロルド・ライミスが監督した『ホリデーロード4000キロ』(83)といったコメディ映画を多数製作する事になる「ナショナル・ランプーン誌」のコメディ・ライターとして活躍していたジョン・ヒューズが、脚本/監督作品として世に残したのはたったの8本。

 『すてきな片思い』(84)で監督デビューを果たし、続く『ブレックファスト・クラブ』(85)『ときめきサイエンス』(85)『フェリスはある朝突然に』(86)、ヒューズ自身の体験を元に映画化した『結婚の条件』(88)、スティーヴ・マーティンとジョン・キャンディの2大コメディアンを起用した『大災難P.T.A.』(87)、唯一の劇場未公開作『おじさんに気を付けろ』(89)そして監督作品としては最後の作品になった『カーリー・スー』(91)。ヒューズの書く脚本の中では、特出したヒーローやヒロインはいない(唯一の例外はフェリスだ)。クラスのはみ出し者や、普通の庶民/生徒だ。そんな普通のキャラクターが、些細な出来事に巻き込まれ、傷つき、挫折し、笑い、泣きながら成長していく姿を、独自のユーモアとウィットの効いたセリフをテンポ良くちりばめていくのがヒューズ作品の最大の魅力だ。

 そして卓越したセンスの選曲が映画本編を彩り、的確な場面に的確なミュージック・キューを入れる。リストアップしてみれば単純な事だが、これを第三者がやろうとすると、似て非なるモノが出来てしまう。まるで器は同じだけれども味が違うスープのようなモノだ。ヒューズの持つ言葉遊びのセンスは他人には真似できないと女優のアリー・シーディも断言しているし、『プリティ・イン・ピンク』を監督したハワード・ドイッチは、ヒューズとの関係をモーツァルトとサリエリに例えて言及していた。まさに天才なのである。

 そんなヒューズだったが、全世界で大ヒットを記録した『ホーム・アローン』(90)の脚本を書き上げ、『カーリー・スー』(91)を監督したのを最後に監督業から離れてしまう。エドモンド・ダンテの筆名で書いた『ベートーベン』(92)や、ディズニーと組んだ『101』(96)、『フラバー』(97)といったファミリー・コメディの脚本は書いていたが、自身はプロモーションには全く参加せず(一度だけ、日本でプロデュース作品でもある『34丁目の奇跡』(94)のブロモーションで来日記者会見が行われる予定だったが、直前でキャンセルされてしまった。たった一人で記者会見に登壇した、当時七歳だった主演女優マーラ・ウィルソンに全てを委ねて)、デュマの『巌窟王』の主人公と同じ名前をペンネームにしてまで、映画業界から消え去ってしまったのか……何がヒューズをそうさせたのか、今となってはそれを知る術はないが、おそらくティーン映画の名手というレッテルを貼られることに抵抗を感じていたのかもしれない。それがヒューズの映画産業に対する反抗だったのだろうか?

     
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