単なるおバカ映画ではない!? マリファナ好き最強エージェントの恋物語『エージェント・ウルトラ』の革新性

『エージェント・ウルトラ』の奥深さを読む

 また、このような特殊能力を持った者の悲劇を扱った映画の歴史をたどっていくと、『スキャナーズ』『ザ・フライ』『デッド・ゾーン』などのデヴィッド・クローネンバーグ作品が思い起こされる。中でも『ヒストリー・オブ・バイオレンス』は作品の質感こそまるで違えども、同じく過去の忌まわしき記憶と戦うことになる者の物語である。乱暴に言ってしまえば、クローネンバーグ作品をコメディへ変換したらこんな形になるのかもしれない。対してクローネンバーグを正当に後継しようとしたのがジョシュ・トランク監督『ファンタスティック・フォー』で、自らそれを公言している。ジョシュは『クロニクル』監督としてマックスと力を合わせており、彼らがクローネンバーグ信奉者であることは確かだ。

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(c) 2015 American Ultra, LLC. All Rights Reserved.

 先述したように『エージェント・ウルトラ』はある種アメリカンルーザーの物語である。けれど作り手は彼らを卑下させ嘲笑することをせず、むしろ成功への欲望に左右されない確かな幸福感を肯定しているようだ。それは本作が、実はみごとに感動的なラブストーリーであることに関わる。序盤でのマイクとフィービーの恋人生活はとても微笑ましく丁寧に描かれ、ストーリーが進んでいってから2人の間に起きる事件は本編一の驚きをもち、恋の結実となるショットは最も美しく撮られている。そう、これは第一にある男女の幸福に関する物語なのだ。

 ちなみに原題は『American Ultra(アメリカン・ウルトラ)』。アメリカ映画をひとつ革新するとでも言いたげな響きが若くて勇敢で最高だ。

『エージェント・ウルトラ』予告編

■嶋田 一
映画ライター。87年生まれ。精力的に執筆活動中。

■公開情報
『エージェント・ウルトラ』
2016年1月23日(土)新宿ピカデリーほか全国ロードショー
監督:ニマ・ヌリザテ
脚本:マックス・ランディス
出演:ジェシー・アイゼンバーグ、クリステン・スチュワート、ビル・プルマン、トファー・グレイス、ウォルトン・ゴギンズ、コニ―・ブリットン
2015年/アメリカ映画/上映時間96分 /R15+/原題:American Ultra 
配給:KADOKAWA
Photo Credit: Alan Markfield/(c) 2015 American Ultra, LLC. All Rights Reserved. 
公式サイト:agent-ultra.jp

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