大人にこそ観てほしい『パディントン』 普遍的テーマと一流キャストから魅力を紐解く

大人にこそ観てほしい『パディントン』の魅力

豪華アンサンブル、そしてベン・ウィショーの名演

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(c)2014 STUDIOCANAL S.A. TF1 FILMS PRODUCTION S.A.S Paddington Bear TM, Paddington TM AND PB TM are trademarks of Paddington and Company Limited

 もちろん、国民的人気を誇る作品なだけに、製作陣はキャストにも超一流の芸達者を揃えてきた。TVシリーズ『ダウントン・アビー』でグランサム伯爵を演じるヒュー・ボネヴィルが、ここでもやっぱり一家の大黒柱を演じているし、またウディ・アレンの『ブルージャスミン』で絶賛され、最近だと『GODZILLA ゴジラ』の女性科学者役で常に渡辺謙と常に並んで出演していたサリー・ホーキンスの慈愛に満ちた存在感も実に味わい深い。そしてまさかのニコール・キッドマンの悪役起用には一気にとどめを刺された感じ。ねじれた悲哀を抱え込んだ役柄として見事にはまっている。どうやら彼女自身も原作の大ファンだったようで、嬉々としてオファーを承諾したようだ。

 そして、何と言ってもこの映画を成功に導いた立役者は、パディントンに声を、いや生命を吹き込んだベン・ウィショーだろう。『007 スカイフォール』にて伝統芸のQ役を襲名した彼は、ボンドとはまさに対極に位置する細身の身体、繊細な演技、そして深くて優しい声の持ち主でもある。そんな彼が映画ファンにその存在を知らしめた『パフューム ある人殺しの物語』(07)では、ほぼセリフなし、身体的な動きのみで主演を務めていたこともまた鮮明な記憶として刻まれているが、その“声”を最大限にフィーチャーした本作『パディントン』もまた、彼のキャリアにおける代表作となることは間違いない。

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(c)2014 STUDIOCANAL S.A. TF1 FILMS PRODUCTION S.A.S Paddington Bear TM, Paddington TM AND PB TM are trademarks of Paddington and Company Limited

 面白いことに、当初この役にはオスカー俳優コリン・ファースがキャスティングされていた。しかし実際に声をあててみたところでスタッフの間で「これは違う、かな?」という思いが生じた。ファースもまた特徴ある優しい声質を持った名優であることに誰もが疑いを持たないが、しかし現在55歳の彼は実のところブラウン家の大黒柱を演じるヒュー・ボネヴィル(52歳)よりも年配にあたる。いくら芸達者のファースといえどもこれではちょっと年齢的に不釣合い。かくして最終的に製作陣とファースは十分納得しあった上で正式な降板を発表し、それから数か月後、ついにベン・ウィショーが代打に立つこととなった。

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(c)2014 STUDIOCANAL S.A. TF1 FILMS PRODUCTION S.A.S Paddington Bear TM, Paddington TM AND PB TM are trademarks of Paddington and Company Limited

 うーん! これがなんとも味わい深い声の響きなのだ。作法も言葉も礼儀正しく、好奇心旺盛だが、寂しがり屋でもあり、なおかつブラウン一家のマスコット的存在であり続ける特殊性。その微妙な立ち位置を、心地よく吹く風のような爽やかさで演じてみせる。このたまらない耳心地の良さ。

 もちろんご家族連れには吹き替え版がオススメなのは間違いないが、洋画を見慣れた方はぜひウィショーの名演を見(聴き)逃さないでほしい。分かりやすい物語に息づく繊細な心の動きにぎゅっと胸を鷲掴みにされるはずだ。

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■牛津厚信
映画ライター。明治大学政治経済学部を卒業後、某映画放送専門局の勤務を経てフリーランスに転身。現在、「映画.com」、「EYESCREAM」、「パーフェクトムービーガイド」など、さまざまな媒体で映画レビュー執筆やインタビュー記事を手掛ける。また、劇場用パンフレットへの寄稿も行っている。Twitter

■公開情報
『パディントン』
出演:ベン・ウィショー(声の出演)、ニコール・キッドマン、ヒュー・ボネヴィル、サリー・ホーキンス、ジュリー・ウォルターズ、ジム・ブロードベント
監督:ポール・キング
製作:デヴィッド・ハイマン
原作:マイケル・ボンド
配給:キノフィルムズ
(c)2014 STUDIOCANAL S.A. TF1 FILMS PRODUCTION S.A.S Paddington Bear TM, Paddington TM AND PB TM are trademarks of Paddington and Company Limited
公式サイト:paddington-movie.jp

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