劇場発信型の映画祭「未体験ゾーンの映画たち」で注目すべき作品は? 50作品の中からピックアップ

「未体験ゾーンの映画たち」オススメ作品は?

『エイプリル・ソルジャーズ ナチス・北欧大侵略』

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『エイプリル・ソルジャーズ ナチス・北欧大侵略』場面写真 (c)2015 NORDISK FILM PRODUCTION A/S

 2本目に紹介するのはデンマーク産の戦争映画だ。日本でも北欧、特にデンマーク映画は広く受容されている。同じ「未体験ゾーン」で上映される人気ミステリーの映画化第2弾『特捜部Q -キジ殺し-』や、美しくも恐ろしいノルディック・ミステリー『獣は月夜に夢を見る』など、現時点ですでに日本公開が決まっている作品が幾つもある。そんなデンマーク映画ラッシュの始まりを飾る作品が、新鋭ロニ・エズラ監督のデビュー作品『エイプリル・ソルジャーズ ナチス・北欧大侵略』である。

 1940年4月9日の未明、ドイツ軍がデンマークへと侵攻し、後に“ヴェーザー演習作戦”と呼ばれる電撃作戦が開始される。今作はこの作戦をデンマーク軍側の視点から描き出す作品で、登場するのは自転車部隊という小隊だ。馴染みのない名前かもしれないが、彼らは貧相な武器を携えて、文字どおり自転車を漕いで戦場を行く。だが向かってくる相手は巨大な戦車を駆るドイツ軍であり、勝ち目などないのでは? と一目で思わされるが、それこそがこの映画の本質だ。

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『エイプリル・ソルジャーズ ナチス・北欧大侵略』場面写真 (c)2015 NORDISK FILM PRODUCTION A/S

 デンマーク軍のサン少尉(『LUCY/ルーシー』のピルー・アスベック)率いる部隊は、防衛ラインを死守するため、野原に散らばり迎撃体制を整える。息を潜めその時を待つ彼らは、彼方にドイツ軍の進撃を見る。そして戦闘は始まる。先手を打つことには成功するが、こちらにとって最大の武器はマシンガン。一方のドイツ軍は装甲戦車だ。戦力が余りに違いすぎる。防衛戦は数分経たず制圧され、サンたち自転車部隊は逃走するしかない。

 ここから本作は自転車部隊の敗走の記録のみを描いていく。ヒロイックな活躍など微塵も存在することはない。自転車部隊は北へ北へと追い立てられ、その途中にある町を守ろうとしても、ドイツ軍によってものの数十秒で蹂躙され、自転車すら投げ捨て再び敗走する。そんな姿をカメラは映し出す。そして行く先々で彼らは、戦争が起こっているなど知る訳もない、もしくは信じる気もない人々を目の当たりにする。何かが起こっているんだろうなとは思い、町の入り口に集まってふらふらする人々、窓を開け「一体何が起こってるの?」と聞く女性……。「ドイツ軍が攻めてきたんだ!」。言葉が空しく響き渡る。そうして兵士たちが抱くものは無力感以外の何物でもない。

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『エイプリル・ソルジャーズ ナチス・北欧大侵略』場面写真 (c)2015 NORDISK FILM PRODUCTION A/S

 『エイプリル・ソルジャーズ ナチス・北欧大侵略』が特徴的なのは、4月9日という1日に焦点を絞っている所だ。しかし、デヴィッド・エアー監督作『フューリー』のように、1人の兵士がたった1日で変わっていくあの劇的さは存在しない。今作はむしろ逆に、戦争という大いなる災いに対する“成す術のなさ”を、どこまでも淡々と描き出していく。だからこそ、戦争はいかに全てを惨めにするのか? というメッセージが際立つのだ。そしてもう一つ重要なのは、描かれる1日が、戦争が開始されたまさにその1日目だということだ。この作品こそが戦争の始まりに広がる風景なのだという事実は重く、重くのしかかってくる筈だ。

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