『クリムゾン・ピーク』がホラー映画と断言できない理由 ギレルモ監督の作家性から読み解く

久保田和馬の『クリムゾン・ピーク』評

 本作の制作にあたり、デル・トロは自身の愛読書であるジョゼフ・シェルダン・レ・ファニュの『吸血鬼カーミラ』を参考にしたそうだ。カール・Th・ドライエルの『吸血鬼』をはじめ、ロジェ・ヴァディムの『血とバラ』など幾度となく映画化されてきた吸血鬼伝説をイメージさせたにもかかわらず、本作は吸血鬼映画に落とし込まれてはいない。あくまでも、邪悪さと恐怖を引用したものであり、父と二人で暮らすヒロインが幼少期に寝床で死んだ母親の亡霊と対峙する冒頭のシーンは、『吸血鬼カーミラ』へのオマージュのようなものであろう。

 その邪悪さの中心である、カーミラ的存在を演じたジェシカ・チャスティンは、相変わらず演技の幅の広さを見せつける。彼女が演じたルシールという女性は、2016年を代表する悪役として評判になることだろう。また、メインカップルであるミア・ワシコウスカとトム・ヒドルストンが並ぶと、映画の雰囲気的にもジム・ジャームッシュの『オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ』を思い出してしまい、思わずにやりとしてしまう。(それゆえ何度も吸血鬼映画なのではと錯覚してしまうほどである)

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 この映画のもうひとつの主役は、何と言っても舞台となる屋敷である。手入れが行き届いておらず、半ば廃墟と化している立派な屋敷の周りには、何一つ物が置かれておらず、外界から完全にシャットダウンされているのだ。エントランスの中央は屋根が損壊しており、そこから降り注ぐ雪が、屋敷の中でうっすらと積もっていく様は、それだけで廃墟マニアには堪らない光景である。さらに、旧式のエレベーターと、広々とした地下室のショットもまた魅力的で、119分間に渡って興奮が冷める箇所がひとつもない。

■久保田和馬
映画ライター。1989年生まれ。現在、監督業準備中。好きな映画監督は、アラン・レネ、アンドレ・カイヤット、ジャン=ガブリエル・アルビコッコ、ルイス・ブニュエル、ロベール・ブレッソンなど。Twitter

◼︎公開情報
『クリムゾン・ピーク』
監督:ギレルモ・デル・トロ
脚本:ギレルモ・デル・トロ、マシュー・ロビンス
出演:ミア・ワシコウスカ 、トム・ヒドルストン 、ジェシカ・チャステイン 、チャーリー・ハナム
(C) Universal Pictures.

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