女性刑務所の日常はヘヴィーなだけじゃない? 『オレンジ・イズ・ニュー・ブラック』が共感を呼ぶ理由

『オレンジ・イズ・ニュー・ブラック』評

 とはいえ、『オレンジ・イズ・ニュー・ブラック』が『チェーンヒート』と同じような作品かといえば、そうじゃない。事実、劇中ではパイパーによる次のセリフが登場する。

「世の男どもは女子刑務所に妄想を抱いてる 『チェーンヒート』みたいに 女同士のセックス 裸の所持品検査 シャワー室で大乱闘...」(シーズン3/エピソード7の字幕より抜粋)

 そして、話を聞いている者たちが苦笑いしたあと放たれるのが、「他のこともしてる」という一言。この一連の流れには、『オレンジ・イズ・ニュー・ブラック』というドラマの方向性が表れている。もちろん、『オレンジ・イズ・ニュー・ブラック』にも、乱闘シーンやセックス・シーンが登場する。だが、そうしたシーン以上に際立つのは、収容者たちが見せる感情の機微や、些細な日常の風景であり、コメディーとしての軽妙さだ。

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 シーズン1のキャッチフレーズは、「すべての判決に物語がある(Every Sentence Is A Story)」というものだが、このテーマは続くシーズン2と3にも通底している。『オレンジ・イズ・ニュー・ブラック』が秀逸なのは、属性や見た目にとらわれず、すべての収容者たちを“人”として描いているところだ。それゆえ、ヘヴィーな問題を扱いつつも、多くの人が共鳴できる感情や物語を紡ぎ、笑いを生みだすことができる。このように娯楽性と批評性を高いレベルで共生させたからこそ、2014年度の全米映画俳優組合賞で、アンサンブル演技賞(コメディー部門)を受賞するなど、多くの栄冠に恵まれたのだろう。

 そんな『オレンジ・イズ・ニュー・ブラック』は、『仮面の米国』のように、多くの人を変えるキッカケになる作品かもしれない。『仮面の米国』は、1932年に公開されたアメリカの映画。脱獄映画の草分け的作品としても知られる、いわば古典のひとつである。この映画は、当時ジョージア州の刑務所でおこなわれていた非人道的扱いに堪えかねたロバート・エリオット・バーンズが、脱獄後に執筆した手記をもとに作られた。リアリティーを追及した描写が光る娯楽作品としても上質だが、刑務所による無慈悲な刑罰を広く知らしめた社会派映画としても優れている。公開当時は議論を呼び、ジョージア州では上映禁止になったという逸話を持つ。その結果、1955年にジョージア州は、囚人たちをひとつの鎖に繋いで長時間労働させるチェイン・ギャンク制度を廃止。ひとつの映画が大きな社会的影響力を持った事例として、多くの人に記憶されている。

 冒頭で書いたように、『オレンジ・イズ・ニュー・ブラック』もノンフィクション小説が原案だ。さまざまな人種、さまざまな性的指向の者を描きだす本作は、世に蔓延る偏見や固定観念を解きほぐしてくれるはずである。劇中で収容者たちが自分について自由に語っている姿に、“自分も好きなように語っていいんだ”と励まされた人は、少なくないだろう。言うなれば、『オレンジ・イズ・ニュー・ブラック』は、“対話”のもつ可能性を拡げるドラマなのだ。

(文=近藤真弥)

■作品情報
『オレンジ・イズ・ニューブラック』
Netflixにて好評オンラインストリーミング中
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