女性ヒーローが成立する条件とは何か? マーベルと『ジェシカ・ジョーンズ』の挑戦

『ジェシカ・ジョーンズ』の新たな挑戦

 11月20日にNetflixで全13話一斉配信となったマーベルの新作ドラマ『ジェシカ・ジョーンズ』。先行作品『デアデビル』と同じく、映画『アベンジャーズ』第1作後のニューヨークが舞台で、『デアデビル』と共通するキャラクターも登場し、マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)をさらに一歩広げる作品だ。

 この作品によってマーベルが広げようとしているのは、MCUの世界だけじゃない。『ジェシカ・ジョーンズ』でマーベルは「女性ヒーローを主人公にする」という新しいチャレンジに乗り出している。今まで、チームの中に女性キャラクターがいたことはあっても、異能をもった女性を単独主人公にした作品はなかった。そもそも、アメコミヒーロー映画というジャンルにとって、女性主人公は鬼門だ。『スーパーマン』(1978年)の成功の後には『スーパーガール』(1984)の失敗があり、『バットマン リターンズ』(1992)の後には(直接的なつながりはないけど)『キャットウーマン』(2004年)のラジー賞授賞があった。『ワンダーウーマン』テレビドラマ版はパイロット版のみで話が立ち消えになり、2017年公開予定の初映画化がどうなるか期待半分不安半分で待たれているところ。ブラックウィドウ単独映画も未定のまま。『スーパーガール』テレビドラマ版が現在アメリカで成功中だが、少なくとも最近まで興行的にも内容的にもかなり厳しい歴史が続いている。アメコミヒーロー映画の人気の定着により、「次は女性ヒーローだ!」という企画の噂は絶えず流れるものの、なかなか実現にすら至らないのが、女性ヒーローもののつい最近までの状況だった。

 その理由は何か。それこそハリウッドの偉い方々が散々議論を重ねているテーマだろうが、そこに一つ私見を付け加えると、そもそも現代の「ヒーローもの」に求められるものと、女性主人公に一般的に求められるものに食い違いがあることが一つの理由ではないか。現代のヒーローものには、「なぜヒーローをやるのか」という問いがついてまわる。現実には存在しないタイプのキャラクターをわざわざ創造するためには、それにふさわしい主体的な動機、理由づけが必須だからだ。でも、女性ヒーローものには、「ヒーローとして主体的に活躍する人物」を主人公としていながら、その主人公が実は性的な消費対象でもある、というねじれた構造がある。男の場合は、ある種フリーク化することで一般の評価軸から外れるという道がある。「天才奇人社長」「第二次世界大戦の生きた化石」「緑の怪物」など、実際、現代のヒーローものの主人公の多くはそういう存在だ。ところが、女性の場合は今のところその道が取れず、性的に消費する視線から逃れる方法が確立されていない。これまでの実写版女性ヒーローものの歴史は、大げさに言えば、ヒーローとしての活躍と性的なアピールを両立させたヒーローを創造せよという、矛盾した要求との戦いの歴史だったともいえるんじゃないか。

 では、『ジェシカ・ジョーンズ』はどうしたか。製作者が選んだのは、「女性がヒーローをやるとはどういうことか」という問いを、ドラマの真ん中に据え、正面から取り組むことだった。『ジェシカ・ジョーンズ』の新しさはその点にある。ドラマ中、そもそも主人公であるジェシカは、車を持ち上げ南京錠を引きちぎる怪力を持ちながら、ヒーローとしては活動しておらず、生活のために探偵業を営んでいる。道を訊いて教えてくれた人に礼を言わなかったり、タクシー運転手に渡すチップが少なかったりと、微妙に嫌なヤツだったりもする。そして、酒に溺れている。

 なぜジェシカは自分の能力を活かそうとせず、自暴自棄になっているのか。かつて、人を操る能力を持つ男・キルグレイブに利用され、人を殺してしまったからだ。また、キルグレイブに操られていた頃、キルグレイブにレイプされたことで深く傷ついてもいる。

 物語は、死んだはずのキルグレイブが関与しているとしか思えない事件がジェシカの周囲で起こることから幕を開ける。陸上競技に打ち込んでいた女子大生・ホープはキルグレイブに操られ、ジェシカの目の前で、両親を自分の手で銃殺してしまう。終身刑に処されたホープを救うためには、キルグレイブとその能力の実在を証明するしかない。そのために、ジェシカはキルグレイブを生きて捕まえようと苦闘することになる。一方で、追いかけられるキルグレイブ自身、ジェシカに異常な執着を見せ、人を操る能力を持ちながら、それをジェシカに対して直接は用いずにジェシカを自らのものにしようとする。2人の追いつ追われつで全13話のドラマは進行する。

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