Netflixは日本のコメディー市場を切り拓くか? 『アンブレイカブル・キミー・シュミット』に見る大人のエンタメ性

『アンブレイカブル・キミー・シュミット』評
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 コメディーは日本ではウケないというのは業界の定説だ。事実、映画は未公開作品が多いし、このところ大人のエンタメとして人気の海外ドラマにおいても、言わずもがな。例えば、近年は日本のエンタメファンには浸透しつつある、テレビ界のアカデミー賞と言われるエミー賞。9月に授賞式が開催された今年のドラマシリーズの作品賞候補は、『ゲーム・オブ・スローンズ』『ハウス・オブ・カード 野望の階段』など、7作品が全てがなんらかの形で日本に上陸しているから馴染みがある(対象となる最新シーズンは未上陸の作品も多いが)。一方、コメディーシリーズ部門となるとどうか? 作品賞7作品中、日本でコンスタントに放送されているのは『モダン・ファミリー』のみでDVDリリース作品はゼロ。大抵の日本人にとってはポカーンである。

 アメリカのコメディーシリーズは1話30分が基本(エミー賞では今年から同カテゴリーの定義が改定された)で、地上波の番組だとCMを抜かせば正味20分強程度。一方、CMが入らないペイチャンネルHBOのモキュメンタリー式コメディー『ラリーのミッドライフ★クライシス』などは、エピソードごとにわずかなバラツキがある。これは作り手のクリエイティビティを重視した結果でもあるのだが、一般的にいって放送局の編成からすれば面倒なことこの上ない。8シーズンにわたって、この通好みの秀作をきっちりと放送してくれた某局には頭が下がるが、大抵は厄介者扱いされて拾ってもらえない。

 さらに笑いの感覚の違いや文化的背景の問題などを踏まえると、制限の多い字幕版の製作は困難を極め、かといって情報量が多く気軽に視聴できる吹替版を作る費用もばかにならない。運良く字幕&吹替が放送時に作られたとしても、パッケージでは30分番組はディスクの枚数が少なくなることもあり儲けが少ないから敬遠される。もちろん、エンタメは慈善事業ではない。が、ここまでコメディーが作品の良し悪しや需要の有無とは別の理由で、ふるいにかけられてしまうのは残念でならない。

 そんな由々しき日本のコメディー市場において救世主と言えるのがオンラインの動画配信サービスである。冒頭のエミー賞作品賞候補作のうち、新番組のトランスジェンダーの高齢者が主人公の『トランスペアレント』と、カルト教団から解放された女性が主人公の『アンブレイカブル・キミー・シュミット』が、9月に日本でもサービスが始まったAmazon、Netflixのそれぞれのオリジナル番組として視聴できる。話題の新作をタイムリーに視聴できることは、海外ドラマファンにとっては喜ばしい限り(吹替版もある)。正直、両作品ともに動画配信サービスが上陸していなければ、一体いつ日本で観られたことやら。

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