『ロバート・アルトマン』ドキュメンタリーが描き出す“アルトマンらしさ”とは?

『ロバート・アルトマン』ドキュメンタリー評

 冒頭に掲げられた「定義」を裏打ちするような、アルトマン自身の説得力ある言葉の数々。その果てに、観る者は知ることになるのだ。アルトマン映画の魅力とは、アルトマン自身の魅力とイコールだったことを。ひとつ印象的な映像がある。友人知人を自宅に招いてホーム・パーティを開いたときの様子を捉えたプライベートなホーム・ビデオだ。階下で盛り上がる人々を、二階の手すりからニヤリと笑いながら、アルトマンが見下ろしている。特定の誰かを眺めるのではなく、その全体をいつくしむように眺めること。「群像劇」と呼ばれる映画は、古今東西数多く存在するけれど、アルトマンの「作家性」のひとつとも言える「群像劇」は、他のものとは大きく異なっている。その理由は、この「まなざし」にあるのだろう。家族を愛し、役者を愛し、スタッフを愛し……そもそも人間全体を、その「弱さ」も含めて愛し続けた映画監督アルトマン。彼が「インディペンデント映画の父」と呼ばれるゆえんは、その「反骨精神」のみにあらず。彼は文字通り、映画の「父」だったのだ。威厳の代わりにユーモアとアイロニーを湛えた「映画の父」としてのアルトマン。彼は言う。「映画は砂の城と同じだ。『大きな城を作るぞ』と言って仲間とやっと完成させる。だが、やがて波が城をきれいに運び去る。それでも、その砂の城はみなの胸に残るんだ」。その言葉が、観終えたあとも深く心に残り続けるような、とてもエモーショナルなドキュメンタリー映画だった。

(文=麦倉正樹)

■公開情報
『ロバート・アルトマン/ハリウッドに最も嫌われ、そして愛された男』
10月3日(土)より、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国順次公開
監督:ロン・マン
証言者:ジュリアン・ムーア、ブルース・ウィリス、ポール・トーマス・アンダーソン、エリオット・グールド、サリー・ケラーマン、ジェームズ・カーン、キース・キャラダイン、フィリップ・ベイカー・ホール、ライル・ラヴェット、マイケル・マーフィ、リリー・トムリンほか 
原題:Altman/カナダ/2014年/95分 
配給:ビターズ・エンド
(C)2014 sphinxproductions
公式サイト:www.bitters.co.jp/altman

■イベント情報
映画『ロバート・アルトマン/ハリウッドに最も嫌われ、そして愛された男』公開記念!
「アルトマン祭り」

★アルトマン監督の最高傑作『ナッシュビル』を特別に上映!@YEBISU GARDEN CINEMA
10月12日(月・祝)12:55 (1日1回上映)
(通常料金、映画『ロバート・アルトマン~』前売り使用可、『ロバート・アルトマン~』半券で割引あり。詳細は劇場へ)
監督:ロバート・アルトマン 出演::デイヴィッド・アーキン、バーバラ・バクスレイ、ネッド・ビーティ/公開年:1976年
カントリー&ウエスタンのメッカとして有名なナッシュビルに集まった24人の5日間の行動を通して素顔のアメリカを描く。

★公開記念!スペシャルイベント開催!@YEBISU GARDEN CINEMA
10月14日(水)19:30の回:巽孝之さん(慶応義塾大学教授・アメリカ文学専攻)×青山南さん(翻訳家・エッセイスト)「アルトマンと文学の魅惑の関係」
10月21日(水)菊地成孔さん(音楽家・文筆家)「アルトマン初のドキュメントを語る」
10月28日(水)樋口泰人さん(映画評論家・boid主宰)×中原昌也さん(ミュージシャン・作家)
「アルトマン映画をマニアックに語り尽くす!」

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