芳根京子と志尊淳が演じる、理想のカップル 『先輩と彼女』に見る若手俳優の躍進とは

『先輩と彼女』芳根京子と志尊淳の相性

20151016-senpai-05th_.jpg

 

 そしてやはり注目すべきはヒロインを演じる芳根京子であろう。ほぼ原作の扉絵に則したオープニングから始まるこの映画は、もう前半から芳根ワールドに包まれる。原作にはなかった猫と会話をする登場シーン。髪を茶色く染めて、膝上丈のスカートで『表参道高校合唱部!』とは違った雰囲気の高校生を演じているかと思えば、豊かな表情のバリエーションと台詞の強弱の付け方が冴え渡る。中でも縁日のシークエンスは途方もないほど魅力を発揮しており、手前に風車が並んでいるフレームに登場した芳根は、画面の左から右に駆け抜けながら息を吹きかけて風車を回転させていくのである。そして相手役の志尊淳にあんず飴をねだるまでの明るさと、そのあんず飴を落としてしまったときの表情のコントラストの変化が、帽子を目深にかぶっていても容易に判る。

 よくよく考えてみれば、撮影は本作の方が『表参道高校合唱部!』よりも前であるのだから、多少は見劣りする部分もあるだろうかと思っていたが、まったくもってその心配は必要がなかった。池田演出によってもたらされる、シネマスコープ画面を存分に活かした距離感の表現や、おとなしめのカメラワークすべてが、彼女の演技を引き立てる、理想的な青春映画のパッケージを構築している。

 また興味深い点は、前述した通り『表参道高校合唱部!』でのメインカップルを演じる芳根京子と志尊淳の二人が再びメインカップルとして再共演したところであろう。主人公の恋敵を演じる小島梨里杏も、“オモコー”で真琴をイジめるクラスメイト・風香を演じており、メインキャスト3名がそのまま引き継がれているのである。昨年の秋に『ごめんね青春!』で共演した黒島結菜、小関裕太、富山えり子の3人が青春映画『あしたになれば。』で共演した前例があるように、若手俳優の需要と供給のバランスが今ひとつ合っていなのかもしれないが、実力のある若手がその実力をさらに伸ばす機会を与えられるのは素晴らしいことであるし、短いスパンで同じカップリングを異なる物語で観れるというのも、何だか50年代頃の日本映画のスターシステムを見ているようでワクワクするものだ。

20151016-senpai-06th_.jpg

 

 再び芳根京子の相手役を務める志尊淳は、城田優らを輩出したワタナベエンターテインメントの俳優集団D-BOYSのメンバーで、今年の冬まで放映していたスーパー戦隊シリーズ『烈車戦隊トッキュウジャー』で主演のトッキュウ1号を演じていた(ここで小島梨里杏がトッキュウ3号を演じていたことを思い出すと、なおさら若手俳優の狭さを感じてしまうのだが)。身長は178cmだから平均よりやや高いくらいで、高身長の部類に入るのだろうか。カップルの理想の身長差が15cmとよく言われているが、159cmの芳根京子と並んでも、それほど違和感のある身長差ではない。何より、顔の造形の優秀さは言うまでもなく、見た目以上に可愛らしい声が印象的で、一度聞いたら忘れられない声をしている。

 芳根と志尊、両者とも特徴的な声質を持ち、柔らかい空気感を放つので、どちらかの個性を潰し合うこともなく、会話のシーンにおいても非常にバランスが良いカップリングに思える。この三ヶ月見てきた安心感も相まって、自然体な演技を見せる二人の共演シーンは、とても心地良い時間が流れる。年末から始まる今年の映画賞で、二人とも高い評価を受けるに違いない。いや、むしろ高い評価を受けるべきだ。

 それにしても、“オモコー”では突っ走る芳根を応援し、優しい言葉で暖かく見守るポジションだった志尊が、今回の映画では突っ走る芳根を「バカだな」と笑いながらも、時折ときめかせるような仕草を狙い撃ちしてくる、見事なツンデレを見せる。もちろん、お預けになっていたキスシーンも用意されている上、“オモコー”のクライマックスと同様に二人の後ろを回り込むようなカメラワークで既視感があるのだから、ドキドキ感が増す。安定した芳根演技に対して、キャラクターの変化を楽しむのなら志尊淳の演技からも目が離せないのである。これは志尊ファンが急増するであろうし、男子高校生たちは彼の真似をしようと教室の窓辺を取り合うことであろう。

■久保田和馬
映画ライター。1989年生まれ。現在、監督業準備中。好きな映画監督は、アラン・レネ、アンドレ・カイヤット、ジャン=ガブリエル・アルビコッコ、ルイス・ブニュエル、ロベール・ブレッソンなど。Twitter

■公開情報
『先輩と彼女』
10月17日(土)新宿バルト9他全国ロードショー
志尊淳 芳根京子 小島梨里杏 戸塚純貴 水谷果穂 渡辺真起子 ほか
原作:南波あつこ『先輩と彼女』(講談社「別冊フレンド」刊)
脚本:和田清人 監督:池田千尋 音楽:茂野雅道
製作:「先輩と彼女」製作委員会
制作プロダクション:フラミンゴ 制作協力:ブースタープロジェクト
(C)「先輩と彼女」製作委員会 (C)南波あつこ/講談社
オフィシャルサイト: http://senpaitokanojo.jp/

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「国内ドラマシーン分析」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる