『人生スイッチ』成功に見る、ミニシアター系作品がヒットする条件

『人生スイッチ』はなぜヒットしたか?

 もうひとつの背景には、「劇場」の努力もあるという。しっかりと自身の劇場の「観客層」を熟知したうえで上映作品を決めていることが、ヒット作の増加に繋がっている。例えばいくつかのミニシアターは、モーニング、日中、レイトで別の作品を上映するという工夫をしている。また「邦題」も重要で、観客層にマッチしたものになるよう、劇場側が案を出すことがあるようだ。門間氏には、邦題が功を奏したケースを挙げてもらった。

「ゲイ・カップルとダウン症の少年の絆を描いた『チョコレートドーナツ』(2012年/原題:Any Day Now)は、非常にへヴィな題材を扱った作品ながら、ソフトな邦題によってコーティングされたことでロングランヒットしました。『人生スイッチ』も、原題の『WILD TALES』のままだとミニシアターのコアターゲットである中高年にしか注目されなかったかもしれませんが、タイトルを変更したことで年齢層を広げることに成功したのではないでしょうか。幅広い観客層を狙った邦題は、似た単語の頻出を招いたり、映画の持つ本来の個性とズレてしまったりという問題点はあるものの、この1、2年のミニシアター系でヒットが増加した理由のひとつだと言えると思います。ズレた邦題が、逆にSNSなどでバズって、作品の認知度を高めることもありますから」

 どのミニシアターも、若年層を取り込むことに苦心していると門間氏は話す。ミニシアターを取り巻く環境は今後、どうなっていくのか。

「2、3年前まで、ミニシアターがどんどん閉館に追い込まれて、"もうヤバイんじゃないか"という危機感が強くありましたが、今は多少状況が変わりましたよね。このまま好調をキープするのか、はたまたVODサービスの浸透などによって淘汰されるのか、1、2年後の見通しは立てにくいのが現状です。ひとつ言えるのは劇場が生き延びるひとつの策は、ミニシアターに足を運ぶことを"習慣"にする人を増やすことだと思います」

 ミニシアターでどんな作品が上映されているかを自ら調べるのは熱心な映画好きが大半だろうが、SNSで評判が拡散されていくことは一般層が興味を持つきっかけになる。SNSは作品がヒットする理由になっているだけでなく、ミニシアターそのものを身近な存在にするために一役買っていると言えそうだ。

(取材・文=編集部)

■公開情報
『人生スイッチ』
7月25日(土)から
ヒューマントラストシネマ有楽町、シネマライズほか 全国順次ロードショー

(C)2014Kramer & Sigman Films / El Deseo

配給:ギャガ
監督:ダミアン・ジフロン
製作:ペドロ・アルモドバル

リカルド・ダリン『 瞳の奥の秘密』
リタ・コルテセ『オリンダのリストランテ』
ダリオ・グランディネッティ『トーク・トゥ・ハー』 

『人生スイッチ』公式サイト

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