米国で映画のテレビドラマ化が相次ぐ背景とは? 9月から『マイノリティ・リポート』も放送開始

 最近で成功している例は、「NIKITA/ニキータ」や「ターミネーター:サラ・コナー クロニクルズ」のように割と真っ向勝負の前日談や後日談といったものではなく、ある程度視聴者層を絞り込んだ作り、とりわけ二次創作的な要素が色濃い作風がトレンドとなっている。「サイコ」の前日談「ベイツ・モーテル」は、現代が舞台という大胆さ。映像全体にレトロ感を演出して「サイコ」にこれでもかと目配せしながら、映画を知っているからこそ引っかかるトリッキーなエピソードも盛り込まれていて、心憎い。傑作シリーズ「FARGO/ファーゴ」は、コーエン兄弟の「ファーゴ」の世界観を踏襲しながらも、似ているようで全く違う物語を1シーズンで見せ切るアンソロジー形式で描いて、前シーズンの賞レースを席巻した。

 こうした成功例は、大抵はケーブル局の作品だ。前述のCBSの例に漏れず、地上波の縛りは非常に厳しく大味になりがち。大味は大味で需要はあるが、映像のスケール感や国際的なスターのバリューも含めてヒットした映画を、ゆるく大味にドラマ化されても誰も喜ばないのは万国共通である。

 そういう意味では、地上波としてはギリギリの線まで挑戦し、原作、映画の世界観を忠実に再現しながらオリジナリティを発揮した「HANNIBAL/ハンニバル」は、注目に価する。誰もが目にする地上波のNBCネットワークで、これほど過激な映像表現を放送して良いののか否かは別問題として、二次創作的な作りでありながら超一流の映像世界を構築したクリエイター、ブライアン・フラーの挑戦は、作り手にとっての夢そのもの。また、視聴率だけで言えばシーズン1の時点で打ち切りが妥当だったにも関わらず、シーズン3まで放送したNBCの判断は、視聴率至上主義の米国テレビ業界に一石を投じるものであった。残念ながら3シーズンで終了となったが、失敗作かどうかという判断には、ワールドワイドのセールスも含めた分析が必要だ。作品の質という意味では文句無しに優秀で、映画のドラマ化にひとつの可能性を提示したものと位置付けることができるため、単純に打ち切り=失敗作とは言えない。

 こうした流れを背景に、「トレーニング・デイ」と「マイノリティ・リポート」のテレビドラマ版を考えてみると、この企画を軌道に乗せることの難しさが見えてくる。前者はワーナー・ブラザース・テレビジョンが製作し、放送局はまだ決まっていないが、映画から15年後のロサンゼルス市警が舞台で、映画とは逆に新人刑事が黒人、ベテラン刑事が白人になるという程度のひねりでは新鮮味は薄い。このところテレビでは失敗作が続いているジェリー・ブラッカイマーがプロデューサーというのも、アメドラファンにとっては不吉な予感は拭えないだろう。

 後者は、パイロット版がネット上にリークされるなど話題性は抜群だったが、そのパイロット版に関しては微妙な評判しか聞こえてこない。映画の10年後を舞台に、未来に起こる兇悪犯罪を事前に察知して犯人を逮捕するという設定も、それだけを聞けばアメドラには似たような設定の作品はいくつもある。プロデューサーにはスティーヴン・スピルバーグが名を連ねているが、”名義貸し”と言われることの多いスピルバーグの名前に、少なくともテレビ作品においてはブランド力は低い。放送局が地上波のFOXネットワークであることも、万人向けを強いられそうで不安要素の一因と言えるだろう。

 もちろん、パイロット版から修正をかけてうまく軌道に乗せるところまで持っていける基礎体力が、アメリカのテレビ業界にはある。何百回となく描かれてきた警察内汚職の話もSFサスペンスも、ふたを開けてみれば「その手があったか!」といった意外な形で成功を収める可能性は十分にあり得る。「トーレニング・デイ」と「マイノリティ・リポート」が、予想を裏切ってくれることを期待したい。

■今祥枝
映画・海外ドラマライター。「BAILA」「日経エンタテインメント!」「エクラ」「オレンジページ」「ブリリアントシネマクラブ」「シネマトゥデイ」など雑誌・ウェブで連載。ほかプレス作成、劇場用パンフレットにも寄稿。時々ラジオ、映像のお仕事。著書に「海外ドラマ10年史」(日経BP社)。Twitter

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