『ぼっち・ざ・ろっく!』「ちゃお」から「きらら」に作者が移籍し大ヒット! なぜ萌え系4コマ漫画誌から話題作が生まれる?

『ぼっち・ざ・ろっく!』はなぜヒットした

 現在、少女漫画界の最大の問題は、爆発的なヒット作が長らく出ていないことである。アニメーション全体の制作本数は増えているし、『鬼滅の刃』や『SPY×FAMILY』など、少年漫画からは絶え間なくヒット作が出ている。しかし、少女漫画を原作とするアニメがほとんど制作されていないのは寂しい限りだ。映画化される作品は時折あるが、社会現象になるほどのヒットには至っていないのが実情であろう。

 2018年に放送が始まった『カードキャプターさくら クリアカード編』は、アニメファンの間では話題になった。しかし、あくまでも本作は20年以上前に始まった漫画の続編である。それに「なかよし」の連載陣を見ると、2000年前後に連載していた漫画の続編が多い。もはや少女がターゲットではなく、大人を意識した誌面作りをしているように思える。

 2022年11月7日に日本雑誌協会が発表した、印刷部数公表(2022年7月~9月)をもとに三大少女漫画雑誌の発行部数(印刷証明付き発行部数)を掲載しよう。

「ちゃお」 163,333部
「りぼん」 136,667部
「なかよし」 43,333部

 ちなみに、「りぼん」は1990年代の最盛期で約240万部、「なかよし」は約200万部発行されていた。いずれも部数の落ち込みが著しく、「なかよし」はついに5万部を割った。なぜ、少女漫画界が活性化しないのか。その原因を分析してみたいと思う。

 現在、新人の少女漫画家を悩ませているのは、「デビューしても描く場所がない」問題である。どんな雑誌であれ、新人がいきなり連載を持つのはよほどの実力がないと難しい。少女漫画の場合、かつては増刊号が発行されているケースが多く、新人が腕試しをする場として機能していた。増刊号の読切で頭角を現し、本誌掲載に至るというのがわかりやすい出世街道であった。

 だが、「なかよし」の増刊号は休刊してしまい、定期的に増刊号が出ているのは「りぼん」と「ちゃお」のみとなった。しかし、「りぼん」は発行回数が多くない。「ちゃお」は増刊号のほかに、WEBに『ちゃおコミ』という無料で漫画が読めるサイトを開設。新人が腕試しをする場が比較的多く提供されているものの、新人が腕を磨く場が少なくなったのは深刻な問題である。

 こうした実情ゆえに、しばらく前から漫画家志望者の間でも、「りぼん」「なかよし」から、「ちゃお」に投稿の場を移す人が散見されていた。そして、それはプロデビューした漫画家においても同様だった。例えば、「りぼん」で活躍した漫画家の大岡さおりが、「ちゃお」で白雪バンビにペンネームを変更し、再デビューした例がある。少女漫画誌で最大の発行部数である「ちゃお」に、漫画家が魅力を感じるのは自然なことであろう。

 ところが、近年はその「ちゃお」からも、漫画家の移籍が起こっているのである。移籍先は萌え系4コマで知られる「きらら」系の雑誌である。その筆頭といえるのが、アニメが今期最大級の注目作となっている『ぼっち・ざ・ろっく』の作者、はまじあきであろう。もともとはまじは「ちゃお」でデビューし、何本か読切を発表したことがある作家であったが、「まんがタイムきららMAX」に移籍して記録的なヒットを飛ばす形になった。

 少女漫画家がいわゆる萌え系に移行しやすいのは、そもそも萌え系が少女漫画をルーツとしているためである。目が大きく華やかな絵柄は、手塚治虫の頃から脈々と受け継がれる少女漫画の表現様式そのものだ。さらにいえば、少女漫画と萌え系は日常系や学園モノが多い点も共通しているため、少女漫画家はすんなりと移籍しやすいのかもしれない。

 また、アニメ化の可能性が大きいのは「きらら」が選ばれる大きなポイントだろう。「きらら」は『ひだまりスケッチ』の大ヒット以来、アニメに力を入れるようになり、最近はアニメ化作品が相次ぎ、ヒットを連発している。アニメがヒットすればコミックスも売れる。グッズもたくさん出る。企業とのタイアップも増える。漫画家にとってかなりおいしい媒体であることは間違いない。

 対して、現在の少女漫画雑誌はアニメ化に積極的とは言い難い。これは部数にも直結するのであろう。書店に行くと、「きらら」系が平積みになっている一方で、少女漫画は元気がない。こうした実情が、少女漫画家に「きらら」が選ばれる要因になっているのではないか。

 もはや、少年漫画を少女が読んでいる時代であり、もはや少女漫画、少年漫画という分類が無意味であるという意見すらある。しかしながら、「なかよし」は1954年以来、歴史を絶やさず発行され続けている日本最古の漫画雑誌であり、2年後には創刊70周年を迎える。数多の名作を生み出してきた少女漫画の衰退を見るのは悲しいものがある。今こそ編集部と漫画家が一体となって名作を生み出し、市場の更なる活性化を望みたい。

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