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Phil Spector

(フィル・スペクター)

「天才と狂気は紙一重」……。フィル・スペクターほど、この言葉を思い起こさせる人物はいない。ロック界のリヒャルト・ワグナーと称され、アーティストよりもプロデューサーの方が重要という概念を世に広めたパイオニア的存在。と同時に、強烈なエゴとエキセントリックな行動の数々で、伝説の人物として米国音楽史にその名を刻んだ。
その類い稀なる才能は、”ウォール・オブ・サウンド”の発明によって、世に知られることになる。”スペクター・アーミー”と呼ばれるエレクトリック・オーケストラを自由自在に操り、楽器を幾層にも重ねることによって得られる重厚なエコーにより、世にも美しい”音の壁”を作り上げた。今聴いても、ジーン・ピットニーの「ヒーズ・ア・レベル」やクリスタルズの「ダ・ドゥ・ロン・ロン」、そしてロネッツの 「ビー・マイ・ベイビー」にライチャス・ブラザースの「ユーヴ・ロスト・ザット・ラヴィン・フィーリン(ふられた気持)」といった名曲群は、まったく瑞々しさを失っていない。なぜなら、ポップでありながらラジカル——これ以前もこれ以後も、こんなサウンドは存在しないからである。
彼の黄金時代は60年代初期に始まり、67年のアイク&ティナ・ターナー「リヴァー・ディープ・マウンテン・ハイ」の不発をきっかけに没落することになるが、それはくしくもロックが成熟し、若者文化の主導権を完全に握った時期と一致する。その後は、ビートルズの『レット・イット・ビー』やジョージ・ハリスンの『オール・シング・マスト・パス』、ジョン・レノンの一連のアルバムを手掛けるものの、過去の栄光を再び取り戻すことはできなかった。
現在では完全に引きこもり状態のフィル・スペクター。しかしいまだに、世界中至る所で”ウォール・オブ・サウンド”のオマージュのような作品が次々と生まれている。まるでポップスは、永遠に彼の影響から逃れられないかのようだ……。

制作協力:
OKMusic

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