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80年代のアンダーグラウンド・シーンが生んだ最大の怪物が、フィータスである。本名ジム・サールウェル、ほぼ作品毎に名を変えるこの男は、嵐のように吹き荒れたパンク/ニュー・ウェイヴのムーヴメントが急速に終息に向かい、保守化・類型化・閉塞化する中、圧倒的なパワーとテンション、類を見ない斬新な音楽性で鮮烈なデビューを飾った。フィータスの「出現」は、ミニストリー、ナイン・インチ・ネイルズらインダストリアル組の登場の直接的な契機となったのはもちろん、トランシーな反復性、ロック、パンク、ジャズ、ヒップホップ、ブルース、現代音楽、クラシック、映画音楽など雑多な音楽性を縦横に往還するミクスチュアリズムの密度の濃さ、都市の荒廃と混沌を体現する目まぐるしいスピード感などで、その後のオルタナティヴ・ロックに深刻な影響を与えた。彼のフォロワーたちが大きな商業的成功を収めたのに対して、フィータスがそうなったことは一度としてない。だがそれは先駆者として一切の妥協を許さなかったという証である。フィータスの表現に「ほどほど」という言葉は存在しない。いついかなるときも、彼のメーターはレッドゾーンに振れ放しだ。優れた表現とはある種の狂気と極端さにほかならないことを、フィータスの音楽は雄弁すぎるほどに物語っている。
フィータスの正確な生年は不明だが、おそらく1960年前後と思われる。オーストラリアのメルボルンで生まれ、78年にロンドンに移り、本格的な音楽活動を開始する。81年〜82年にかけて自らのレーベル、<セルフ・イモレーション>から2枚のアルバムと2枚のシングルを発表、84年にサム・ビザールの協力のもと出世作『HOLE』をリリースし、ポスト・パンク/ニュー・ウェイヴを模索するシーンに深刻な衝撃を与えた。
それ以降、すさまじいばかりの情報量とエネルギーを迸らせるような作品を精力的に送り出し、膨大な量のリミックス・ワークもこなしながら、フィータスは依然現役第一線でい続けている。なによりすごいのが、自己の方法論を次々と更新しかつ完成度を高めていくばかりか、そのパワーとテンションが、むしろ作品を追うごとに増強・拡大していることだ。自らを表現に駆り立てる初期衝動を忘れることなく、いやむしろそれを際限なく膨れあがらせるおそるべき精神力の強靱さこそが、フィータスの真骨頂なのである。 (小野島 大)

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