関ジャニ∞、AKB48、リトグリら楽曲手がけた丸谷マナブのクリエイティブ術 「作曲、プロデュースは言葉を探す作業」

丸谷マナブのクリエイティブ術

ヒットのポテンシャルを高める重要な要素

ーーなるほど。そして、2012年12月に、丸谷さんの作曲によるAKB48の「永遠プレッシャー」がリリースされます。作家としてジャンプアップした楽曲だと思いますが、どういう経緯で楽曲が採用されたんですか?

丸谷:たまたまというか、運だったんですよ。「永遠プレッシャー」は「フライングゲット」と「恋するフォーチュンクッキー」の間にリリースされたシングルなんですが、とにかくAKB48はめちゃくちゃ売れていて。秋元康さんはいつも新しい作曲家を探していたし、作曲歴こそ長いけど提供曲はほとんどない、個性はあるけど不器用なタイプの作家を「おもしろい」と思ってくれたんじゃないかなと。直接お聞きしたわけではないので、勝手に想像してるだけですけど(笑)。しかも「永遠プレッシャー」は、アイドルソングを意識して作っていなくて、浮かんできたメロディを曲にしただけで。それを若田部誠さんにアレンジしていただいて、いきなりシングルの表題曲になったので、運でしかないと思ってます。

【MV full】 永遠プレッシャー / AKB48[公式]

ーーただ、「永遠プレッシャー」が作家としての第一歩だったのは間違いないのでは?

丸谷:確かに作家としての扉を開けてもらったんだけど、その先の道が険しすぎて。実際、その後の1年くらい、何を書いても採用されなかったし、まったく響かなかったんですよ。「『永遠プレッシャー』はやっぱり運だったんだな」と思ったし、苦しかったですね。

ーーAKB48の楽曲でいうと、2013年10月末に「ハート・エレキ」、2014年5月には代表曲の一つである「ラブラドール・レトリバー」の作曲を担当。「永遠プレッシャー」から「ハート・エレキ」の間に、作家としての乗り越えないといけない壁があったと。

丸谷:はい。特に「ハート・エレキ」は大きかったですね、自分にとって。コンペの案件のために、初めて狙って書いたのが「ハート・エレキ」だったんです。GS(グループサウンズ)っぽい曲を求められたので、当時の映像などを見て、自分なりに研究して。GSのルーツのなかにはThe Beatlesがあるなと感じて、そこが自分のなかでクロスしたんですよね。自分の得意なことと求められていることを結び付けて、狙って作った曲が採用されたのは、すごく自信になりました。

【MV full】 ハート・エレキ -Dance ver.- / AKB48[公式]

ーー当時のAKB48は地上波の音楽番組にもとにかくたくさん出演していて。自分の楽曲がテレビから流れたり、街中で聴こえてくると、達成感もあったでしょうね。

丸谷:その通りですね。「永遠プレッシャー」のときにそれをすごく感じたんですよ。あの曲は年末のリリースだったので、地上波の特番で何度も歌ってもらえて。ある番組では、B'z、AKB48の「永遠プレッシャー」、Mr.Childrenの順番で歌われることもあったし、嬉しかったですね。自分の狭い部屋で作った曲がいろいろな過程を経て、最後にアウトプットされるのがテレビなんだなと。それがわかったのは大きかったですね。

ーーゴールはテレビ、つまりお茶の間だと。

丸谷:今はいろいろなアウトプット先があるけど、2012年の時点は、間違いなくそうだったと思います。ライブも見せてもらって、ファンの人達の反応も目の当たりにして。「成功体験に勝るものはない」とよく言いますが、「永遠プレッシャー」のおかげで、頭のなかをアップデート出来た感覚がありました。

ーーLittle Glee Monsterとの関わりも深いですが、最初の接点はどこだったんですか?

丸谷:最初はホントに偶然で。ポケモンの主題歌(「ガオガオ・オールスター」/テレビアニメ『ポケットモンスター XY』エンディングテーマ)のコンペに参加して、選んでもらったのがきっかけだったんです。その後、Little Glee Monsterが歌うことになって、そこで初めてお会いして。レコーディングにも立ち会って、「おもしろいグループだな」と。

ーーその流れで、4thシングル曲の「好きだ。」を手がけることに?

丸谷:そのプロセスもちょっと変わってるんですよ。「リトグリの4thシングルのコンペに参加するなら、どんな曲を作りますか?」というテーマの講座イベントがあって、僕が先生役をやったんです。おもしろそうだなと思って引き受けたんですけど、やり始めると「これは大変だな」と。曲を作るとき、「どうしてこのコードを選んだのか」とか「なぜこのメロディになったのか」って、いちいち考えてなかったんですよ。それを生徒の前で説明して、なおかつ圧倒的にキャッチーで、いい曲を作らないといけないっていう。ただ、すでに僕はリトグリのメンバーに会っていたので、そこで感じたことを反映させようと思って。彼女たちは自分の娘でもおかしくない世代で、どういう思考回路を持ってるか、ぜんぜんわからなくて(笑)。

ーーなるほど(笑)。

丸谷:一方でその頃、海外クリエイターと一緒に仕事することが増えていて、そのなかで感じたことをリトグリの反映してみようと思ったんです。彼らは自分の気持ちを臆せず表現するし、友達にも「I miss you」「I like you」って言うんですよ。僕自身もその雰囲気が心地よかったし、「もしリトグリのメンバーが、お互いに“好きだよ”“会いたかった”」って言ってたら、日本の未来は明るいなと。その時点ではただの妄想なんですけど(笑)、自分が体験したことを踏まえて、リトグリのみんなが「好きだ」と歌う曲を作れたら説得力があるだろうなと思ったんです。同級生に恋している曲にも聴こえるだろうし、フレンドシップの歌に聴こえるのもいいな、と。

ーーそこで曲の設計図が出来た。

丸谷:そうですね。あとは爽やかなメロディやハーモニー、ソウルミュージックのセンスも取り入れて。結果的に作詞家の前田甘露さんにも入ってもらったんですが、〈「キミ」が好きだ〉という歌詞はデモの段階からあったんです。歌詞とメロディの親和性、そのアーティストが歌う意味、リリースするタイミングが揃うと、ヒットのポテンシャルが高いんだなと実感しましたね。

Little Glee Monster 『好きだ。』-Short Ver.-

ーーそして「世界はあなたに笑いかけている」はLittle Glee Monsterのイメージを決定づけた曲だと思います。この楽曲の制作には、どんなテーマがあったんですか?

丸谷:最初はコカ・コーラのCMソングだと明かされてなくて、「清涼飲料水の大きいタイアップがほぼ決まっています」という話だったんです。スタッフからも「これが勝負曲になる」という意気込みが伝わる案件だったし、コンペとはいえ、「これは自分が書かないといけない」という覚悟を持って臨みました。タイアップに沿うために絶対的な清涼感が必要だし、リトグリらしいハーモニーとソウルフルなグルーヴはもちろんなんですが、彼女たちの活動をずっと見てきて、「このタイミングで必要なのは普遍性だ」と思って。普遍性って便利な言葉だし、ともすれば退屈なんですよ。すでに売れたアーティストがやれば、みんなに聴いてもらえるいい曲になるんだけど、彼女たちはそこにアプローチする直前だったし、まだまだ新鮮さも求められる。つまり新鮮さと普遍性を兼ね備えた曲が必要だったんですよね。

ーーめちゃくちゃハードル高いじゃないですか。曲の核になる部分はどこだったんですか?

丸谷:冒頭の〈smile together〉ですね。“smile”も“together”も普遍代表みたいな言葉なんだけど、この2つをくっつけたフレーズは聴いたことがないなと。メロディも一緒に浮かんで、これはフックになるはずだと思って。最初のデモ音源は英語が多めだったんですが、いしわたり淳治さんが歌詞に関わってくれて、〈ほら笑って〉という強いフレーズを作ってくださったのも大きかったですね。音楽的には、そこまでBPMが速くない曲でシンコペーションしていたり、追っかけのコーラスまでキレイに3声でハモってたり。新鮮さと普遍性のバランスもいいと思うし、リトグリにとっても大事な曲になったのは嬉しいですね。

Little Glee Monster 『世界はあなたに笑いかけている』Short Ver.

ーーKAT-TUNの「UNLOCK」についても聞かせてください。この曲の作曲は、海外のアーティストとの共作ですね。

丸谷:韓国の2人組(Tobias Granbacka、Command Freaks)とのコライトです。彼らとは初めて韓国に行ったときから一緒に作ってきたし、親友でもあって。「UNLOCK」は初めてシングルの表題曲になった曲で、決まったときは達成感がありましたね。海外のクリエイターと共作するときは、J-POPらしいメロディを期待されてるところがあって。役割がはっきりしているので、「何をやったらいいかわからない」ということはないですね。効率がいい作り方だなと思います。

ーーKAT-TUNのような超メジャーなアーティストに楽曲を提供したことも、丸谷さんのキャリアにとっても大きいですよね。

丸谷:そうですね。三代目 J SOUL BROTHERSの「HAPPY」もコライトなんですけど、自分一人では書けなかった曲だと思うので。才能のあるトラックメイカーやシンガーと一緒に作ることで、自分にはなかったセンスを引き出してもらえるのもありがたくて。

ーー最後にクリエイターとしての目標、将来像を教えてもらえますか?

丸谷:そんなにカッコいい未来は描けてないですね。今も「いつまでやれるだろう」と思うことがあるし、一方で作家としてやれていることに幸せを感じることもあって。あまり先を見過ぎてもしょうがないし、(自分で決めた目標に)縛られ過ぎてもよくないので。

ーーでは、作家としてやりがいを感じるときは?

丸谷:曲を作る仕事ですが、自分のことはどうでもよくて。アーティストが満足してくれて、ファンが増えたりすると、「楽曲を通して、社会に携わっている」という実感がありますね。

ーー当然、ファンの方が喜んでくれることも含まれますよね。

丸谷:はい、もちろん。リトグリのお客さんは若い方も多いので、「初めて見たライブがリトグリでした」という声を聞くこともあって。すごいことをやらせてもらってるんだなと思いますね。

合わせて読みたい

ESME MORI、作家活動での出会い

丸谷マナブ オフィシャルサイト
https://manabumarutani.wixsite.com/index

丸谷マナブ Sony Music Publishing オフィシャルサイト https://smpj.jp/songwriters/manabumarutani/

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