内田彩が築き上げてきた“当たり前”という財産 “Take it easy”を掲げた一夜を振り返る

内田彩、“Take it easy”な一夜振り返る

 内田彩になれるのは、内田彩だけであるーーそんな“当たり前”こそ、彼女が2014年11月のアーティストデビューから築き上げてきた他ならない財産だ。

 前文は、3月8日に開催された『AYA UCHIDA LIVE 2019 ~Take it easy~』東京公演を終えての所感である。同ライブは、3月6日発売の新シングル『Sign/Candy Flavor』を携えてのものだ。アーティストデビュー当初、時にはステージでさえ不安や緊張を口にしてきた内田。そんな彼女がいつもの“へらへら”顔で“Take it easy”(=気楽にやろう)を掲げるまでには、これまでの挑戦をこれからの当たり前に……という努力の歴史があるに違いない。今回はそんなライブタイトルもあり、内田のライブにある“当たり前”をあえて意識することに。すると、その“当たり前”は、極めて高水準な音楽表現の上に成立していることを改めて実感させられた。

内田彩

 内田のライブを初めて体験するならば、きっと“あるパート”で大いに驚かされるはず。それは、彼女とそのバックバンドがフォーリズムのアレンジで、フューチャーベースをはじめとするダンスミュージックを表現してしまうことだ。この日の冒頭でも、新曲「Candy Flavor」や、ダンサブルなアレンジの「What you want!」で、踊れる空間を一気に構築していく。さらに「Floating Heart」「Everlasting Parade」では、内田のライブに必要不可欠な“hisakuniランド”を開園した。

 「What you want!」を除く3曲は、どれも煌びやかなシンセ音や、うねるようなベースラインが特徴的な打ち込み楽曲。バンド演奏を前提には制作してはいないだろう。そんな音楽ジャンルの垣根を飄々と乗り越えてしまうのが、内田の制作チームに感じる末恐ろしいところ。アレンジの際には、細やかなギターカッティングで、サウンドを一層に華やかにさせるなど、四つ打ちキックの隙間を賑わせた。

 また、ライブ中盤には新曲「Sign」も歌唱。同楽曲は、TVアニメ『五等分の花嫁』(TBSほか)のエンディングテーマだ。同アニメの内容にあわせて、楽曲の歌詞も想い人への深い愛情を歌った内容に仕上がっている。内田は歌唱時、中盤まではその気持ちを抑えるようにゆったりと発声。そこから大サビを迎えたところで、一気に感情を押し上げていく。彼女の緩急をつけた表現もまた、豊富な演技/歌唱経験に裏打ちされたものだろう。

 ここでも気になったのが、同楽曲のサウンドアレンジだ。一聴するとチルな雰囲気漂うミディアムナンバーながらも、Aメロ前にレコードのバックスピン音を盛り込むなど、ダンスミュージック的なギミックも。また、ハイハットの刻み方には、近年のヒップホップで興隆している“トラップビート”にも通ずる要素が。トラップの特徴は、楽曲内で一貫してクローズハイハットを細かに刻むこと。実際の披露時にも、ドラムは他楽曲に比べてハイハットに手数を割いていた印象がある。

 今でこそ定番のダンスミュージック×バンドアレンジ。そこからは、バンドメンバーや内田を支える制作チームの本気度合いがひとひしと伝わってくる。また、内田本人の安定した歌唱力はもちろん、彼女が存分にステージを楽しんでくれるからこそ、サポート陣もその想いに精一杯で応えるのだろう。

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