作詞家 zoppに聞く、2018年のベストリリック 「米津玄師さんは踊りが生きる歌詞になっている」

作詞家zoppに聞く、2018年ベストリリック

 修二と彰「青春アミーゴ」や、山下智久「抱いてセニョリータ」など、数々のヒット曲を手掛ける作詞家・zopp。彼は作詞家や小説家として活躍しながら、自ら『作詞クラブ』を主宰し、未来のヒットメイカーを育成している。これまでの本連載では、ヒット曲を生み出した名作詞家が紡いだ歌詞や、比喩表現、英詞と日本詞、歌詞の物語性、ワードアドバイザーとしての役割などについて、同氏の作品や著名アーティストの代表曲をピックアップし、存分に語ってもらってきた。

 第20回目となる今回は、2018年のベストリリックをテーマにインタビュー。2018年を象徴する歌詞や印象に残ったフレーズなどについて話を聞いた。(編集部)

「“歌詞の表現”として挙げるとしたら、米津さんは今年のベスト」

ーーまずは2018年の全体的な歌詞の傾向についてどのように感じられましたか?

zopp:今の音楽シーンでは「言いたいことをはっきり言うアーティスト」と「キャラクターを作りこむアーティスト」が二極化しているように感じます。言いたいことを言っているアーティストの代表格といえば、米津玄師さんや、あいみょんさん。あと本人たちが作詞しているわけではありませんが欅坂46も。また、彼らに比べてもう少し言葉使いをソフトにしたのが、星野源さんやback numberです。優等生よりもちょっと毒舌な方が共感を得やすいのではないでしょうか。あとはダンスです。DA PUMP、TWICEらの活躍ぶりを見ていると、“踊る”ことが非常に大事になってきてるんだなと思います。歌詞って振り付けにもすごく影響を与えるので、“歌詞”と“ダンス”のリンクがすごく重要な年だったと言えるでしょう。

ーーたしかに今年の『NHK紅白歌合戦』出場者などを見てもダンスグループが多いですよね。

zopp:多いですよね。ダンスグループまたはシンガーソングライターが大半を占めています。

ーーでは、zoppさんが考える今年のベストリリックについても伺えればと思います。

zopp:まずは「ドラえもん」(星野源)です。まずタイトルを「ドラえもん」にするドラえもんの曲ってない。でもそれをやれちゃうのが星野源さんの遊び心なんだと思います。この曲のキラーワードは、サビの〈どどどどどどどどど〉。こういったフレーズって、一歩間違えると聴き手から“手を抜いている”って思われやすいんですよ。でも、手を抜いてるんじゃなくて、あえてそうしているっていう冒険心を持ってるんです。「おさかな天国」(柴矢裕美)、「リンダリンダ」(THE BLUE HEARTS)、「きよしのズンドコ節」(氷川きよし)のサビもそうですが、同じ言葉が続くことでフレーズはすごく耳に残ります。

ーー米津さんの「Flamingo」でも、サビ部分でフラフラ……と繰り返されていますね。

zopp:そうですね。こうした手法って職業作詞家側からするとすごく勇気があることなんですよ。特に「ドラえもん」の〈どどどどどどどどど〉には意味がないじゃないですか。「おさかな天国」だったら〈サカナ〉を何度も言うことによって“魚ってたくさん種類がいるよね”みたいな含みを持たせられますけど、〈どどどどどどどどど〉には含みがない。単純に聴いたり、見たりした時のインパクトを意識して作ったんだろうなと。あと、この曲は、『ドラえもん』のキャラクターが歌詞に入ってるところもポイントですね。

ーー原作ファンにとっても、登場キャラクターがでてくることは嬉しいですよね。

zopp:そうですね。あと星野源さんでいうと「アイデア」にもキラーワードがあります。2番のBメロに〈生きてただ生きていて/踏まれ潰れた花のように/にこやかに 中指を〉ってありますよね。このフレーズにある〈中指〉って、“中指を立てる”っていう意味だと思うんですね。全体的に美しい描写や詩的なワードがあるなかで、2番の最後の最後に“笑いながら中指を立てる”っていう毒があるところも、シンガーソングライターだからこその歌詞だろうなと思います。

ーー先ほどのお話にあった“耳のインパクト”という意味では、米津さんの「Lemon」に“クエッ”という音が取り入れられていたのも印象的でした。

zopp:「Lemon」で用いられているこの手法は、おそらくEDMからきてるものだと思います。子供の声のようなものをサンプリングして繰り返している。これは、ジャスティン・ビーバーさんなどが早い段階で取り入れていた手法です。昨今ではひとつのスタンダードになっていますね。

ーー米津さんも今年飛躍されたアーティストかと思います。米津さんの歌詞についてはどうでしょうか?

zopp:米津さんは、踊りが生きる歌詞になっていると思います。だから、韻を踏むことがすごく意識されているというか。特に「Flamingo」は、イ段でずっと韻を踏んでいる。韻を踏むってシンプルなことなんですけど、言葉がリズムをちゃんと切ってくれてるので、一連の流れで聴いてると気持ちいいんですよね。こうしたところにも、彼の曲がヒットした理由がある。彼はラッパーの気質もあると思います。

 さらに彼の良いところは、キーワードがしっかりあるところ。「Lemon」「Flamingo」「LOSER」もそうですが、タイトルに名詞が多いんです。物ありきで歌詞を展開させてるんじゃないのかな。あとは、古語が多いですよね。「Flamingo」にある歌詞だと〈宵闇に〉〈爪弾き〉〈雨曝し〉〈花曇り〉などがありますが、日常会話では使わないじゃないですか。純和風な要素が入っていて、独特な歌詞の世界観だなと感じます。

 それから米津さんは超個人的な意見を歌詞に含ませていると思います。それを象徴するのが「Lemon」の〈苦いレモンの匂い〉というフレーズ。「レモン」っていうと「爽やか」「酸っぱい」っていうイメージがある中で、〈苦いレモン〉と歌うのは彼らしい独特なワードですごくいいフレーズだなと思いますね。アイドルの歌が多くの人に共感されるものであるとしたら、米津さんは共感をあまり求めていない。“自分の歌を聴いてくれる人だけでいい”っていう感覚なんです。こうした歌詞表現をしていたアーティストって、近年の男性ではあまりいなかったように思います。“歌詞の表現”として挙げるとしたら、米津さんは今年のベストですね。

ーー“自分の歌を聴いてくれる人だけでいい”という感覚でありながらも、万人に受け入れられているというのが不思議ですね。

zopp:やっぱり聴いていて心地良いんですよね。歌詞をよく見ると、ダークなことや危なげなことを言ってるんですけど、韻を踏んで、フロウとして聴こえてくるので、毒のある歌詞であってもそこまで言葉の意味が引き立たない。あと、米津さんは繰り返しが多いですよね。〈あの日の悲しみさえ、あの日の苦しみさえ〉(「Lemon」)のように、言葉を繰り返すとキャッチーになりますよね。例えば「あの日の悲しみさえ 僕が分かっていたのなら」みたいなフレーズにしてしまうと耳に残らない。でも〈あの日の悲しみさえ あの日の苦しみさえ〉とすることで、その曲の“ニックネーム”になるようなサビになるんです。〈地元じゃ負け知らず〉が「青春アミーゴ」を代弁しているように、「Lemon」もリスナーの印象に残る歌詞になっています。そこもすごく大事なところなんだと思いますね。

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