Hi-STANDARD、“All Generations”集った18年ぶりマリンスタジアム 『AIR JAM 2018』レポ

『AIR JAM 2018』レポート

 Hi-STANDARDが実質的に活動休止となる前の、最後のステージとなった『AIR JAM 2000』からおよそ18年、再び千葉マリンスタジアム(現:ZOZOマリンスタジアム)で9月9日に開催された『AIR JAM 2018』のトップバッターは、なんとBRAHMANだった。TOSHI-LOW(Vo)の「AIR JAM、この場所に帰ってきてくれてありがとう」という言葉には、演者はもちろんのこと、観客それぞれがこの18年間で味わってきたあらゆる経験に対する思いが濃縮されていたように感じる。今回の『AIR JAM』の出演陣(Hi-STANDARD、The Birthday、マキシマム ザ ホルモン、10-FEET、KOHH、BRAHMAN、HEY-SMITH、SiM、SLANG、04 Limited Sazabys)を見ると、今や国内のロックシーンを代表するベテランバンドの一つであるBRAHMANがトップバッターを務めるのは、異例ともいえる。しかし、この地で再び『AIR JAM』の開幕を宣言するのは、やはり18年前にも圧巻のステージングを披露したBRAHMANの他にいないのだろう。今や甲子園の応援歌としても親しまれる、時代を越える名曲となった「SEE OFF」の骨太なサウンドがスタジアムに鳴り響いた瞬間、押し寄せるあらゆる感情とともに、その予感は確信へと変わった。

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 『AIR JAM 2000』は、“伝説的”という言葉で簡単に片付けることができないほど、当時、青春時代を過ごしていたキッズたちに甚大な影響を与えたイベントだった。Hi-STANDARDはその新鮮な音楽性のみならず、ファッションやアティチュードにおいてもバンドマンたちの目指すべき理想を体現していた存在であり、『AIR JAM 2000』のVHSは地方でくすぶっていた少年少女たちにとってバイブル以外の何物でもなかった。BRAHMANのライブ中に入場規制がかかったが、どうしても彼らの演奏を目にしたかったキッズたちが無理矢理にアリーナに乱入したという事件も、今よりずっと牧歌的だった時代においては、痛快かつ刺激的なエピソードとして語り継がれていた。VHSを、文字通り擦り切れるほど何度も繰り返して観た者の中には、後にプロのミュージシャンとして活躍するようになった者も決して少なくはない。

 ハードコアパンクやスラッシュメタルにレゲエのテイストを加えて、独自の音楽性を確立したSiMもまた、そうしたバンドの一つだ。硬質でヘヴィなサウンドを疾走感溢れる演奏で鳴らしきる「Blah Blah Blah」からスタートしたSiMのライブは、残暑の厳しい日差しが照りつけるアリーナをさらに熱狂へと誘う。次々と巻き起こるサークルモッシュは、まさに興奮の坩堝といった様相で、早くもこのイベントの方向性を指し示していた。そして、MAH(Vo)が自身の音楽ルーツにHi-STANDARDがあることを表明し、そのカバー曲「Dear my friend」を披露すると、アリーナからは大合唱が巻き起こる。これが『AIR JAM』なのだと実感した瞬間だった。

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 真のハードコアとは何か、その答えを体現するSLANGは、今回の『AIR JAM』の中ではもっともアンダーグラウンドな音楽性を持つバンドかもしれない。〈難民キャンプに血の雨が降る/処刑台に向かう男たちの目/ガス室から歩き帰る者はない〉と歌い出す「BLACK RAIN」は、ポップでもなければキャッチーでもなく、その重厚なメッセージ性を含めて、気軽に聴き流せる種類の音楽ではないだろう。どんな風に受け止めて良いのか、戸惑う観客もいたはずである。しかし、その根底に流れる真摯でピースフルな精神性は、絶対にパンクロックに欠かしてはいけないものだ。わざわざ書くのはあまり粋ではないかもしれないが、『AIR JAM』に出演しているバンドの多くは常日頃から社会貢献に意識的であり、災害などがあれば必ず支援しようとする者ばかりである。これはシーンにおける美点であり、バンドマンたちにお互いに助け合おうとする気持ちがあったからこそ、『AIR JAM』もここまで発展した。最後に披露された「何もしないお前に何がわかる 何もしないお前の何が変わる」は、SLANG渾身のメッセージソングだ。「北海道なめんなよ!」とKO(Vo)がステージからアリーナに降り立ち、観客を鼓舞する姿には、痺れるほどのパンクロックを感じた。同郷であるbloodthirsty butchersのことを思い出させてくれたのも、印象的だった。行動するバンド・SLANGが震災被害に見舞われた北海道から駆けつけたことの意味は大きい。

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 パンクロックだけに留まらず、別のシーンで光るアーティストを紹介するのも、『AIR JAM』の役割の一つだろう。今回の出演アーティストでいうと、KOHHがそれに当たる。1MC1DJのストイックなライブ。〈死んでも良いけど死にやしねぇ〉と歌う「Die Young」で幕を開けたステージは、KOHHならではの溜めのあるフロウとイルなトラップビートによって、どこまでもドープに染まっていく。Hi-STANDARDは、今回KOHHを呼んだ理由について、「ヒップホップだけど、ロックだから。パンクだから」と語っていたが、広いステージでたった一人、己の信念を歌い上げる姿はたしかにロックであり、パンクであった。

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 KOHHのシリアスなステージから一転、満員になったアリーナを再びお祭り騒ぎにしたのは、絶大な人気を誇るモンスターバンド・マキシマム ザ ホルモンだ。代表曲「恋のメガラバ」が、その狂った歌詞の映像とともに披露されると、スタジアムも狂乱の渦に。同曲が発表されたのは2006年。10年以上の月日を経てなお、マキシマム ザ ホルモンの楽曲は斬新さとキャッチーさが際立っていて、改めてその偉大さに気付かされる。また、ダイスケはん(キャーキャーうるさい方)が、TOSHI-LOWからパワハラを受けたという告発映像(?)を流すと、会場が爆笑に包まれる一幕も。さらに、TOKIOの名曲「LOVE YOU ONLY」をカバーするなど、やりたい放題のパフォーマンスで『AIR JAM』を大いに盛り上げた。

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 続くHEY SMITHは、ハイスタ直系のメロディックなパンクバンドであり、ホーンセクションが加えられていることでスカサウンドを鳴らすことができるのが大きな特徴である。また、ラウドな声質の猪狩秀平とクリーンな声質のYujiによるツインボーカルによって、幅広い楽曲をモノにしているのもポイントだ。ライブ後半で披露された、サビの切ないメロディラインが印象的な「Goodbye To Say Hello」は、沈みゆく夕日ともにアリーナをエモーショナルな色合いに染めていた。

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 2001年にデビューした10-FEETもまた、この18年間で大きく成長したバンドである。定番となった荘厳なSEが流れると、観客たちは10-FEETのタオルを掲げて彼らを迎える。「1 size FITS ALL」「RIVER」「1sec.」と、熱量の高い選曲は、そのまま観客たちのテンションと直結し、アリーナではクラウドサーフィングをする観客が続出していた。

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 貫禄のステージングで観客たちを魅了したのは、The Birthdayだ。チバユウスケ(Vo/Gt)は「まさか自分たちが『AIR JAM』に出れるとは思わなかった」と語り、声をかけてくれたHi-STANDARDへの感謝を口にしていたが、ガレージロックを軸としたクールで無骨な音楽性は、どんなロックフェスティバルでも通用する深みを持っているのではないだろうか。「涙がこぼれそう」などの名曲に対する、観客たちの惜しみない拍手はそれを雄弁に物語っていた。

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 今回、個人的にもっとも発見があったのは、トリ前を飾った04 Limited Sazabysのライブである。2008年に結成された04 Limited Sazabysは、『AIR JAM 2000』のVHSに大きな影響を受けたバンドで、そのスタイルはまさにHi-STANDARD譲り。決して新人バンドではないものの、今回のメンツからすればトリ前を務めるのは大抜擢であり、本人たちもまたそれを強く意識していたという。彼らにとっては、この千葉マリンスタジアムこそが憧れのステージで、GEN(Vo/Ba)はそのことを何度も口にしていた。Hi-STANDARDが作り上げたカルチャーが、世代を超えて伝わっていったことを示すバンドであり、その意味で彼らがこの大役を任せられることになったのだろう。しかし、演奏が始まると、そうしたストーリー以上に、このバンドの素晴らしさにただただ打ちのめされた。「monolith」で幕を開けた彼らのライブは、どこまでもポップかつメロディアスでありながら、確かな演奏力に裏打ちされた説得力に満ちており、まるで少年のようなGENの歌声がノスタルジックな響きとともに胸を打つのである。往年のハイスタキッズたちには、この日のライブで04 Limited Sazabysの魅力に気付いた方も多かったのではないだろうか。ラウド系の声質で感情をぶつける様に歌うのも、このジャンルの音楽のかっこよさだが、中性的ともいえるGENのルックスや声質はメロディックハードコアに新たな解釈を与え得るもので、このバンドの最大の武器にもなっていた。04 Limited Sazabysのライブが終了する頃には、トリ前を務めるのに十分な実力を持ったバンドであることを、観客の誰もが認めていたに違いない。

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