曽我部恵一×若林恵×柳樂光隆が語り合う、音楽を支援する存在の重要性 配信時代の“届け方”とは?

曽我部恵一×若林恵×柳樂光隆鼎談

“音楽で食えなくなる”ことには、良い側面も?

若林:曽我部さんは自ら<ROSE RECORDS>というレーベルを運営されていますが、目的は何なんでしょう?

曽我部:個人的に好きなことをやるため、というのが大きいです。日本の音楽をこうしたい、というつもりでは全然ない。でも、音楽業界を見ていると若いミュージシャンでプロで食いたい、という人を見るんだけど、やっぱりなかなか食えないですよね、今の日本の状況だと。

若林:そうですね。でも音楽で食えなくなる、というのは良い側面もあるのではないかなと思います。つまり、経済から離れることで、音楽にもう1回自由を与えられるかもしれない。この間、グラスゴーのGolden Teacherというバンドが来日した時にインタビューしたんですよ。「グラスゴーの音楽経済ってどうなってるの?」と聞いたら、「うーん、ないね」と言っていたんです。グラスゴーはレコーディングできる場所を大学が持っていたり、もともとアートカレッジが多いところで、それこそベルセバ(Belle And Sebastian)とかもアートスクールの出身だったりする。どこを目指す、みたいなことがなくて、お金になるんだったらそこについていってみよう、という原初的な感じがします。

曽我部:俺がミュージシャンになろうと思ったのは、勉強がとにかく嫌いだったからなんですよ。ある時The Rolling Stonesを見たら、チャラチャラして、ギターをジャーンってやって、ものすごい豪邸に住んで、綺麗な女の人連れて、それで超リスペクトされて生きている。それで、楽器も弾けないけど、中学生の時から絶対ミュージシャンになろうと思っていたんですよ。

若林:楽器弾けないのに(笑)。

曽我部:はい(笑)。親からは趣味でやるのは良いから、ちゃんと学校行って就職しなさいって言われてた。でもミュージシャンになりたいな、と思って。自分にとっては、遊んで暮らしていることが重要なんですよ。最初はお金なくて、もうわかんなかったんですよ。良い音楽、好きな音楽を作ることと、それで食えるようになること。全く関係ない2つをどう結びつけるかが、その頃の自分にとっては重要でした。

若林:そのやり方は自分で探していったんですか?

曽我部:自分で探しています、今も。今は配信、ストリーミングの時代になって、リスナーがCDを1枚3000円とかで買ってくれる機会が減ってしまったので、収入が激減するんですよ。そういう時に、今までと変わらない生活、収入を得るためにはどうすれば良いかは今もすごく考えてます。

若林:ストリーミング配信でどれくらいお金が入るんですか?

曽我部:CDを何万枚も売っていたような時代に比べたら、微々たるもんですよね。たとえばYouTubeには広告が入るので収入源にもなり得ます。ただあの広告は、YouTuberの番組だったらYouTuberのところにお金が入るんですけど、ミュージックビデオにつく広告は、その音楽の原盤権利者のところにお金がいくんですよ。つまり、作詞作曲しているミュージシャンではなくレコード会社に入る。そこからどう分配されるかは分からないですが、基本的にYouTubeの広告収入は原盤権利者たちに対するバック。だから、自分たちが原盤権利を持っていないとお金はあまり入らないんです。

若林:今年の『サウス・バイ・サウスウエスト』で、YouTubeチャンネルは新しいレーベルになるか、というテーマのセッションがあったんです。最近話題の88risingという、韓国系のラッパーを抱えている会社は、いきなりYouTubeでMVを公開して、Instagramとかを使って拡散させてバズらせる、という新しい一つのビジネスモデルと言われています。これは今みたいな話が背景にあるからなんですね。

柳樂光隆

BTSのビルボード1位が示す、国外アプローチの重要性

柳樂:それは日本でも結構収入が得られるんですか?

若林:グローバルでやっていると視聴再生回数とかも桁違いになって、それなりの収益になるとは思いますが、日本だけでやるのはちょっと限界がありますよね。

曽我部:チャイルディッシュ・ガンビーノの「This Is America」は何億回も再生されて広告収入もそれなりに入ったと思いますが、日本語でやっている以上、そこまでではいかないのかな、と。

若林:だから、韓国のBTSがビルボードチャートで1位になったのは、結構大きいなと思って。アメリカとかでヒスパニックのシーンが盛り上がって、非英語に対するハードルが下がっていっているという環境があるようで、BTSはその間隙をついているのかもしれません。だから、意外とまたチャンスがあるんじゃないのかなって。海外に出ていくのが良いソリューションかどうかわからないですけど、韓国やアイスランドはそもそも国内マーケットが小さいので、音楽で食っていこうと思ったら海外に出なきゃいけない。だから日本も、もうちょっと外に向けたアプローチが必要なのかな、と。

曽我部:僕は、日本語で日本人に伝わるように作った音楽を、そのまま英語圏に持って行くのはすごい難しいと思います。もちろん、日本語のポップスが好きな海外の方もいますが、アメリカでもツアーをやって……と考えていくと、やはり作り直す必要がある。

若林:台湾や韓国など、アジアはどうですか?

曽我部:アジアに関しては聴いてくれている人がいる、という実感があります。Spotifyだと、今週自分の曲をどこの国で何歳の人がどうやって聴いているか、全部出るんですよ。東京や大阪に加えて、台湾でも聴かれていて、福岡に行くよりも台湾行った方が集客できるんじゃないか、とか。

若林:日本はアジアから見ると、音楽一つ取ってもノイズからフリージャズ、現代音楽まで、信じられないぐらい多様性があり、中にはすごい才能を持つ人たちもたくさんいる。日本がどうやってそこに至ったのかみんな興味があると思うし、日本のアーティストが何か提供できるのではないかと思います。

***

 三者それぞれの立場から、音楽ビジネスについて語られた本トークイベント。参加者には制服を着た高校生や大学生など、10代後半~20代前半の男女の姿も多く見られた。質疑応答では、エンタメロイヤーを目指す大学生からの質問も挙がるなど、充実した時間となった。

 今の日本の音楽シーンにいくつかの課題があることも指摘された。今後ひとつずつ解決していくためには、日本以外の国でどのように音楽が広まり、需要されているのかという状況を知ることは、大きなヒントとなるはずだ。そういった意味でも、TMO SESSIONSは、“音楽の未来”を切り開くために新しい世代と状況や知識を共有し、バトンを託す役割を担ったイベントだったと言えるだろう。

(構成=村上夏菜/撮影=Kayo Sekiguchi)

■放送情報
『TOKYO MUSIC ODYSSEY 2018』の3日間の模様を、60分に濃縮して放送。
初回放送:7月26日(木)23:00~24:00

『TOKYO MUSIC ODYSSEY 2018』オフィシャルサイト

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「インタビュー」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる