怒髪天が掲げる“ロックバンドたるもの”という矜持 「それでも言わずにいられないものが本物」

怒髪天が掲げる“ロックバンド”の矜持

「うちら、“レボリューション”って柄じゃない(笑)」(上原子) 

ーーこの冒頭3曲は“O.A.推奨曲”になっていますが、「HONKAI」を流すのはメディア側からすると、かなりの勇気と覚悟が要りますね。

増子:そうだろうね。でも、こないだフルで流してくれたんだよ。北海道の番組だったんだけど、「最悪、始末書書きますんで」って。ありがたいよね。

ーーその気持ちわかります。なんだかブン殴られて目が覚めたような、「広めなきゃいけない」使命感に駆られるんです。

増子:画家の奈良(美智)さんが、「HONKAI」聴いて「ジョン・レノンが聴いたら泣いて喜ぶよ!!」って、えらく感動してくれたんだけど、さすがにジョン・レノンは泣かないだろう(笑)。わかってくれるとは思うけどさ。今後、どういう反応が出てくるのか楽しみだね。

上原子:「HONKAI」の歌詞がきた時に、いつも以上に「直球で来たな」と思ったんですよ。それから4人でレコーディングして、怒髪天の曲になった。そしてライブでやって、お客さんもみんな歌ってる。そのときに、あらためて「自分たちの言葉になった」と思ったんです。これからあちこちいろんな場所で演奏するのが楽しみですね。

増子:フェスで、楽屋に向かって歌ってやりたいよね。

上原子:客席じゃなくてね。

増子:お客さんはこっち側だと思ってるから。ステージと客席一緒になって、楽屋エリアにいるヤツらに向けて歌ってやるよ!

ーー大らかなメロディの「初めての旅につき」も詞とともに印象深い曲でした。

増子:曲調がフォークや昭和歌謡的なもので、そこから“旅”感が出てるというか。旅というモチーフで書いてはいるんだけど。みんな生きていく中で失敗して落ち込んだり、それは初めての旅なんだから当たり前だよ、という自己肯定に繋がっていく。俺らの歌は大体、自己肯定と他人への攻撃だからね。

上原子:これは“旅”のイメージで作ってはいたんですけど、歌詞見て、「こっちの旅で作ってきたんだ」と最初はびっくりもしたんです。でも、またそれによって曲が違う表情になっていった。そういうのが今回は本当に多くて。「シンプルマン」という歌詞が来れば、不思議とダビングを必要としなくなって来るんですよ。最初はもっと音を重ねようとは思ってたんですけどね。「1999GT-O」もそうで、「80年代ハードコアがやりたい」というところで作ってたんですけど、急に終末感を帯びた曲になって。そういうのは本当にバンドの醍醐味だなぁと。

増子:それが面白くてバンドやってるからね。「ゴミ集積所ノ破落戸」もそうだよね、歌詞決まってから、アレンジがそっちに寄った。この曲もよくあるテーマだと思うんだけど、「妬み、嫉み」そのモチーフが日常的であるという。気取りすぎない。あまり綺麗に作ると、俺の欲しいロックではなくなるというか。

ーー〈バカガミルブタノケツ〉というのもインパクトある言葉選びで。

増子:小学生が言うような言葉をロックサウンドに乗せたら「カッコよく聴こえるのか?」という。これが、なんとなくはカッコよく聴こえた(笑)。ポエムとしての美しさ、一時期はそこにとらわれていた時期もあったんだけど、詞の形を整えることに、あまり興味はなくなちゃったかな。「シンプルマン」の〈シンプルに生きるだけ シンプルにできるだけ〉というのが一番のテーマなんだよね。ファンタジー的なものではなく、できる範囲でいいじゃない。

ーー最後は「希望丸より愛をこめて」。まさにこれぞ“男の歌”。

増子:自分で歌って、最後に涙が出て来るもんな。「たとえ沈みゆく船だとしても、俺は行く」という男の美学だよね。

ーー〈泥船〉ですものね。

増子:泥船なのに〈希望丸〉という名がついてるこの悲しさよね。「希望丸に希望なし」。

上原子:ライブで盛り上げる勇ましい曲を作りたい、っていうだけだったんですけど、これも〈希望丸〉という歌詞が乗ったことによって、ものすごくイメージが変わったんです。前向きだと思ってやっているアレンジやフレーズが、どんどん哀愁の方向に響いていく。疾走感があればあるほど、余計に悲しくなっていくんですよね。最初の汽笛も半分冗談で、絶対ボツるだろうと思ってたんですけど、思いのほか好評で。

増子:これがあることによって、また哀愁ひとしおですよ。暗雲が立ち込める海の彼方を目指す、人生を目指す。人生誰しもが「泥船に乗っているんだ」という自覚があるかないかで、だいぶ違ってくると思うから。

ーー総じて、ストレートなメッセージとともに、胸を抉られるようなアルバムでした。

増子:言いたいことははっきり言う反面で、悲しいときに悲しい顔して歌わないと伝わらない人たちには、もう譲歩する必要はないと思っている。つらいときにつらい顔しないとわからないような人たちは、我々と何かを共有することは、まぁ、無理だろうね。そこに譲歩することが相手に対する優しさとも思わないし。俺はもう「どんなにつらくとも笑い飛ばす、意地張ってやっていく」っていう、「男たるもの」を音楽に持ち込んでやっている人間だし、そういうバンドだからね。

ーーアルバムタイトルは、楽曲が出揃ってから決めたのですか?

増子:そうね、曲揃ってから考えて。「夷曲(ひなぶり)」っていうワードがすごい良かったから。「夷曲」だけでも良かったんだけど。言いたいことを言うのは、「革命=レボリューション」だよね。「俺らのレボリューションってなんだろう?」と考えると「一揆」しかないよね。田舎者が作ったものだから。

上原子:うちら、“レボリューション”って柄じゃないもんねぇ(笑)。

増子:ツアータイトルの「権べ&田吾」というのも、昔ファミコンで『いっき』というゲームがあって、プレイヤー1が「権べ」で、プレイヤー2が「田吾」で……って、誰がわかるんだ(笑)。

ーー(笑)。褌ジャケットも相当なインパクトですよね。

増子:買いづらいよね。坂さんのも一応撮ったんだけど、身体がだらしなさすぎて使えなかったという(笑)。

上原子:これがCD屋さんに並ぶと思うと、ワクワクしますね。

増子:これまでは“聴かず嫌い”のことも考えてのジャケットだったんだけど、逆にそうじゃないほうがいいだろうと。アー写もこれまた、みんな爆笑するだろうと思って撮ったんだけど、意外とマジで取られてしまったという。こんな顔してアー写撮ってるヤツいないよ! 中学生みたいな表情だもんな。シミに至っては画鋲踏んだみたいな顔だからね。ジャケットが褌で、アー写がこれだよ。10代の女の子なんて取り付く島もないよね。

(一同大笑)

上原子:わかんないよ、そういう子たちも、もしかしたら「こういうのを待ってたのよ!」と思うかもしれないし。

増子:そう、そう思ってんだよ! こないだテレビ番組でね、街の10代の女の子たちが「EXILEが好きだ」と言ってる。「どこが好きなんですか?」と聞かれて、「男らしいところです」と答えてる。本当の男らしさっていうのを今回、ダーン!と提示するわけだから。7月11日を境に日本の男らしさの価値観が我々の手に。ザーッと流れて来るよ、10代の女の子たちが。……違うかな? the pillowsのシンちゃん(佐藤シンイチロウ/Dr)にも言われたんだよ、「怒髪天から男らしさを取ったら何も残らないだろう」って。

(一同爆笑)

ーーアルバムを引っ提げてのツアーが10月から来年1月まで続きますが、2019年は結成35年を迎えますね。

増子:そうなんだよね、どんどん月日は過ぎていくね。35年目はなんか面白いことやるか。

上原子:なんかやりたいよね。

増子:まぁ、いつでもやるけどね。「俺たち節目とか関係ねぇぜ」「あえてそういうのはやらないんで」……みたいな気持ちはまったくないからね、勿体無いから。

上原子:節目は大事ですし。お祭りとか宴会とか大好きなんで、何かにつけてやってたいですね。

増子:付き合いたての女の子みたいに、お祝いの口実はいつでも欲しい。

上原子:毎年祝ってもらいたいよね。

増子:「今年も生き延びましたなぁ」って(笑)。

(取材・文=冬将軍)

怒髪天『夷曲一揆』

■リリース情報
『夷曲一揆』
発売:2018年7月11日(水)
価格:初回限定盤(CD+DVD)¥3,800+税
通常盤¥3,000+税

<CD収録内容>(初回限定盤・通常盤 共通)
01.裸武士
02.HONKAI
03.春、風船
04.シンプルマン 
05.デッドストックブルーズ 
06.初めての旅につき 
07.ゴミ集積所ノ破落戸
08.1999GT-O
09.YOI・YOI・YOI
10.希望丸より愛をこめて
11. 裸武士(reprise)

<DVD収録内容>(初回限定盤のみ)
カムバック・サーモン TOUR 2018 "押忍!ホッチャレ部"ツアードキュメント映像

■ライブ情報
『一揆一友TOUR ~権べ&田吾~』

・2018年
10月02日(火)千葉 LOOK 開場19:00 開演19:30
10月06日(土)岐阜 ants 開場18:00 開演18:30
10月08日(月・祝)高松 DIME 開場19:00 開演19:30
10月09日(火)松山 SALONKITTY 開場19:00 開演19:30
10月11日(木)鹿児島 SR HALL 開場19:00 開演19:30
10月13日(土)熊本 B.9 V1 開場18:00 開演18:30
10月14日(日)福岡 DRUM Be-1 開場16:30 開演17:00
10月17日(水)滋賀 U★STONE 開場19:00 開演19:30
10月27日(土)郡山 CLUB #9 開場18:00 開演18:30
10月28日(日)新潟 GOLDEN PIGS RED STAGE 開場16:30 開演17:00
11月03日(土・祝)金沢 AZ 開場18:00 開演18:30
11月04日(日)松本 ALECX 開場16:30 開演17:00
11月10日(土)秋田 Club SWINDLE 開場18:00 開演18:30
11月11日(日)仙台 Rensa 開場16:30 開演17:30
11月15日(木)神戸 太陽と虎 開場19:00 開演19:30
11月17日(土)広島 SECOND CRUTCH 開場18:00 開演18:30
11月18日(日)岡山 IMAGE 開場16:30 開演17:00
11月20日(火)浜松 MESCALIN DRIVE 開場19:00 開演19:30
11月23日(金・祝)栃木 HEAVEN'S ROCK 宇都宮 VJ-2 開場16:30 開演17:00
11月24日(土)水戸 LIGHT HOUSE 開場16:30 開演17:00

・2019年
1月12日(土)大阪 味園ユニバース 開場17:30 開演18:30
1月13日(日)名古屋 ReNY limited 開場17:30 開演18:30
1月19日(土)札幌 PENNY LANE24 開場18:00 開演18:30
1月20日(日)札幌 PENNY LANE24 開場15:30 開演16:00
1月26日(土)東京 Zepp Divercity Tokyo 開場17:00 開演18:00

『一喜一遊TOUR ~権べ&田吾~』
2月2日(土)沖縄 桜坂セントラル 開場18:30 開演19:00

『一喜一遊TOUR ~権べ&田吾の思えばトークへ来たもんだ~』
2月3日(日)沖縄 桜坂セントラル(トーク&ライブ) 開場16:30 開演17:00

■関連リンク
オフィシャルサイト
レーベルサイト

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「インタビュー」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる