agehasprings『Open Lab.』第二回に感じた“音楽の奥深さをポップに伝えることの重要性”

agehasprings『Open Lab.』第二回レポ

 agehaspringsが5月27日、東京・青山学院アスタジオでイベント『agehasprings Open Lab. vol.2』を開催した。

 同社は、音楽プロデューサーの玉井健二(a.k.a. 元気ロケッツ)が代表を務め、蔦谷好位置、田中ユウスケ(a.k.a. Q;indivi)、田中隼人、百田留衣、飛内将大、釣俊輔など、今や日本を代表するヒットメーカーが多数在籍するクリエイティブカンパニー&音楽制作プロダクション。昨年6月に京都の文化エリア・岡崎で開催された音楽祭『OKAZAKI LOOPS』で同企画の第一弾を行い好評を博し、昨年12月に単独イベントとしてスタート(参考:agehaspringsが『Open Lab.』で伝えた“音楽の奥行きと楽しさ”)。今回がその第二回となった。

 今回も第一回目同様、無料にも関わらず密度は濃いながら、未経験者にも音楽家にもためになる内容に。今回の司会進行はグランジの遠山大輔が務めているが、開幕の挨拶で異様な雰囲気に飲まれると、玉井が「これはみんながメモを取る異様なフェスだ」とすかさずフォローを入れ、イベントがスタートした。基本的な構成は前回と変わらず、第一部では玉井と百田が審査を経て選ばれたシンガーのボーカルダイレクションを行い、第三部が始まるまでにその音源を整え、その間の第二部ではクリエイターによるトークが行われるという形だ。

 今回のボーカリストは、インディーズアーティスト支援プロジェクト・Eggsにおいて、前回の8倍にのぼるエントリー数から選ばれた富田拓志。普段はライブハウスを中心に弾き語りを行なっている24歳のシンガーソングライターだ。玉井はまず、彼とディスカッションを行なって、ダイレクションの方向性を決めていくと前置きし「どうあるべき曲かを理解するために、どんな思いがあって作った歌なのかも理解したい」と語った。ディスカッションのなかでまず玉井は、富田の音楽遍歴を解きほぐしていく。BUMP OF CHICKENや長渕剛、syrup16g、ELLEGARDEN、Mr.Childrenなどの名前を挙げたり、「コードは色々なJ-POPからの影響が大きくて、街で流れていて気になったら調べてます」と明かすと、玉井は今回対象となる楽曲「十二月の風」について「聴いていて『コードワークに対してちゃんと興味を持っているな』と思った。コードの勉強にミスチルを役立てているというか、桜井(和寿)さんのコード進行をうまく運用しているし、良い意味で曲に対してプライドを持って作っていると感じる」と、彼の楽曲制作における核の部分を掘り当てた。

 続けて、「シンガーソングライターとして活動していく上で、どういうストーリーを描いている? 音楽一本で食べていきたい?」や「ライブハウスで支持者が増えていくストーリーを描いているのかな?」と、活動スタンスに対する質問を矢継ぎ早に投げ、何かを察したかのような顔をした玉井は、「良い曲を作れる人だからこそ、聴く人がどういう効能を得るかというのをはっきり持っておいたほうがいい」とアドバイス。この答えは後述するとして、ほかにも「音源とライブは別物であると考える? もしくは繋がっていると思う?」や「媒体や評論家に評価されたいというモチベーションはどれくらいある?」といった価値観に迫る一幕も。

 そして富田は一度観客を前に歌唱し、モニターチェックを行ったのち1stテイクへ。玉井が「歌っていて硬くなる感じがするのでほぐしましょう」と唇の運動(一番低いキーの音で唇を鳴らす)をさせ、「出たり引っ込んだりしてもいいから、AメロとBメロをオーバーに歌ってみて。歌の一番最初は、みんなが『どういう歌が来るんだ』と待ち構えているから、そこで持ってる才能、音楽性を見せつけるように驚かせてほしい。逆に抑えるところはもっと抑えて、言葉を前に出してみよう」とアドバイス。さらに「オーバーにやると息が切れるから、いつも以上にブレスを意識して。緊張すると息を吐いちゃって、最後伸ばしたいところが出ないというのを、歌番組で何人も見てきたから」と、実体験を交えながら話し、2ndテイクへ。

 このようなやりとりを8テイクほど続けたのだが、筆者が気になったのは、玉井のボーカルダイレクションにおける前回との相違点。前回は楽曲の世界観をさらに膨らませたり、歌い方をより特徴的にさせるなど、どんどん肉付けをしていったという印象だが、今回は鼻にかかるような富田の歌い方におけるクセを一旦取り、言葉がハッキリ伝わる歌唱法に直してから、最終的にもう一度個性を出した歌い回しに変えることで、富田が持っていたオリジナリティが、より広い人に届くようにチューンアップされていた。こうして二回連続でその様子を見ることで、玉井がボーカリストのどのような部分を見ていて、自分の価値観ではなく、アーティストが望む方向性やスタンスを尊重してダイレクションを試みているのかが、よりハッキリと伝わってきた。

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