緒方恵美が語る、25年の表現活動を経て掴んだものと“エール・ロック”を掲げた理由

緒方恵美が“エール・ロック”を掲げた理由

「次の世代を担う子供たちに『大丈夫だよ』っていう言葉を投げたい」

──アルバムは「Disc R」と「Disc L」の2枚組になっていて、Disc Lに収録された楽曲は、アコースティックセットでのライブレコーディングです。

緒方:はい。Rは、通常通りのスタジオでのレコーディング曲。素晴らしいアレンジャーの皆さんとの楽曲、プラス、パーマネントなバンドメンバーとの一斉録音曲で構成された、「エールロック」なバリバリ盤で(笑)。一方Lの方は、「M’s BAR」という……洋楽のカバーライブを一緒にやっているアコースティックなメンバーと共に、ライブハウスに録音機材を持ち込み、お客さんを入れての公開レコーディング盤です。かなりストイックに録りました。普段のライブでは、ファンサービス旺盛な方ですが(笑)、この時は進行は音楽プロデューサーの佐藤さんに任せ、MCもほとんどなくひたすら歌に集中しました。おかげでどの曲も、なんとか2、3テイクで録り終えることができて。お客さんがいる中、バンド全員で一発録りならではの、良い意味での緊張感と空気感を含んだ、臨場感ある1枚にすることができました。

──「awarding ceremony」の、エンディングのシンガロングはバンドメンバーによるもの?

緒方:オリジナルではバンドメンバーが歌っているパートですが、今回はライブレコーディングだったので、コーラスだけは別録りにしたんです。そうしたら打ち合わせの時、「今回、社長のピアノで始まったんだから、最後は社員で締めるしかないんじゃない?」という話になって(笑)。レコーディングの時に、手が空いていたランティスの社員全員にコーラスで参加してもらいました。社を挙げて作った(?)アルバムです(笑)。

──改めて自分の曲をカバーしてみて、気づいたことなどありましたか?

緒方:沢山。普段、ライブでも歌っている曲が多かったので、最初は今の声で、いつもの気分で歌えばと思ってたんですけど、いざ改めて新しいアレンジの中、ヘッドフォンを付けて楽曲に向き合ってみたら、「あれ? この曲って今までこういう解釈で歌ってたけど……?」って感じる瞬間がいくつもあったんです。OKが出ても、スタジオのコントロールルームでプレイバックしてみて、「やっぱりもう一度歌い直させてください」ってお願いした曲もありました。

──リリースから月日が経ち、緒方さん自身の気持ちも変わってきたからでしょうか?

緒方:それもきっと。例えば「ENDLESS LOVE」(オリジナルは1994年)は、デビューアルバムに収録されたQueenみたいな楽曲なのですが(笑)、自分の大切な恋人が亡くなってしまい、空を見上げて<辛くはない たとえ違う 星に生きても>と歌うんですね。「何度でも生まれ変わって、また君を見つけるよ」って。

──はい。

緒方:この曲をデビュー時に歌ったときは、失ったことが悲しくて、「辛くはない」といいつつも感情をわーっと出していたんです。でも、あれから24年経って、同期や先輩、さらには後輩まで、実際に大切なひとを沢山失くしてきて。もちろん、辛いし悲しいことなんですけど、ふとした瞬間に、そういう人たちは自分の心の中に、ちゃんと生きているんだって感じるようになった。彼らの存在を心のうちにしっかりと抱えたまま、一緒に生きているって。

──それは、とてもよくわかります。

緒方:そう思ったら、「ENDLESS LOVE」のサビの歌い出しの<辛くはない>というフレーズも、決して強がりじゃないんだと。むしろ、亡くなった大事な人への愛を、もっと大きなフレージングで……包容力ある1曲にしたいと思って、歌いました。

──先ほど「言霊」という言葉も出ましたが、「エール・ロック」を掲げている緒方さんは、「アニキ」と慕うファンに対して「責任感」みたいなものもありますか?

緒方:ええ!? いや……アニキどころか、この歳になって未だに厨二病みたいな役が来る程度に、私の中身が厨二なんだと思う訳なんですが(笑)。まあでも、一応、1人の大人として……私には子供はいないけど、次の世代を担う子供たちに、1人のフロントマンとして「大丈夫だよ」っていう言葉を投げたいという気持ちは。こんなご時世ですしね。毎日流れるワイドショーに、「子供が観ていることを考えて、こんなシーンばかり流し続けたり、言葉を投げ合っているのだろうか」って思ってしまうこともある中で、「そうじゃない考え方もあるかもね」「生きることはそんなに悪くないかもね」「キレイゴトばかりじゃないけど、そうだと思って強く生きれば、いいことあるかもね」的ことは、提示して行きたいなって。

──そこに緒方さんの「ロック魂」というか、「オルタナティブ」だし「反骨精神」を感じます。

緒方:そ、そうですか? ありがとうございます(笑)。最近はSNSとかでも、ちょっと何か人と違うことを呟くと、すぐにいろいろ言われちゃうご時世ですしね(笑)。でも、「だから黙るべき」「何も言わなければ賢く生きられる」というのも、本来は違うでしょう。全員の意見が同じなんてことはない。違う意見を持つ者同士が、それでも集まって生きていくのだから。沈黙や否定からは何も生まれない、伝えること……コミュニケーションをとることは大事で、人と関わることの先にだけある楽しいコトの存在を伝えるためにも、……まあ、多少の炎上も、いいかなって(笑)。拳を振り上げて、みたいな言い方をするつもりはないけど、「声優風情が」みたいな批判も屈せず、これからもゆるゆる呟いたり、曲を作ったりしていきたいなと(笑)。

──なるほど。

緒方:世の中、辛いことの方が多いけど、ほんのちょっとの幸せのためにみんな頑張っているわけじゃないですか。9個の大変なことを、悪戦苦闘、試行錯誤、創意工夫してるうちに振ってくるその1個の幸せ、それを言葉で、音楽で、どうやって表現したらいいかを、これからも考えていきたい。一応、1人の、大人として?

──とても心強いです。

緒方:いやいや、「大人」っていうのは偉そうでした……所詮永遠の14歳ですから(笑)。ってあの……あの作品が終わるまでは、14歳のままでいなくちゃいけないっていう意味ですよ?(笑。「エヴァ」のこと)。中二の感覚をもったままの大人として、これからも、みなさんに元気を出して貰えるような音楽を、作品を、ステージを、作っていきたいと思います。

(取材・文=黒田隆憲/撮影=林直幸)

緒方恵美『EARLY OGATA BEST』

■リリース情報
『EARLY OGATA BEST』
発売中
価格:¥3,600 (税抜価格)+税

<DISC1収録内容>
1.silver rain -piano ver.-
2.can’t go back my mission -metal ver.-
3.ジェラシーの痕跡
4.カミング・アウト
5.青い宝石の君
6.-RA・SE・N-
7.鏡の国のアリス
8."sunrise, sunset"
9.Byo-Doでいきましょう'18
10.hit man
11.ENDLESS LOVE

<DISC2収録内容>
1."Dear, My Angel"
2.タイム・リープ
3.believe me
4.約束するよ
5.awarding ceremony

 

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