MOROHAがメジャーデビューしてどうなるか見たい “ドキュメント”としての音楽の迫力を考える

MOROHA、ライブの迫力を考える

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 1万人のファンを前に「俺のがヤバイ」や「奮い立つCDショップにて」を歌ったら嘘っぽくならないか? で、そういうポジションになったら、どうやって新たに歌うことを見つけていくのか? モデルと結婚したけど即離婚”とか“毎週末グリーン車移動、もううんざり”とか歌うのか? それ、歌いたいか? で、聴きたいか?

 ということを確認するために、MOROHAが売れるところを見てみたい、そうなるまでを追ってみたい、ということを、僕はその1stアルバムの時に書いたのだった。<ROSE RECORDS>を離れたあとは、遠くから観たり聴いたりしている程度だった。そのあたりからMOROHAのメディアへの露出が増えたり、アフロがCMのナレーション仕事を始めたりして(テレビを観ていて「あ、アフロの声だ!」ということ、ほんとに増えた)、その分“シーンの地を這いながら絞り出す曲”みたいなことじゃなくなりつつあるイメージがあったのだが、このたびこうしてちゃんと『MOROHA BEST 〜十年再録〜』を聴き直すと、なんにも変わっていなかった。技術やセンスはアップしているが、根っこにあるものは同じだった。

 フェスやイベントで何度か体験して思い知ったのだが、MOROHAのステージって“なんとなく観る”ことが許されない。アフロはそうなのか、UKはこうなのか、ではなくて“おまえはどうなんだ”ということを突きつけてくるので。おまけに一緒に歌えないし踊れもしない。なので、フェスやクラブで楽しくやりたい人はその場から離れて行くし、そうじゃない人はその場にじっと固まってステージを観続けることになる。

 という、いわば“グレーでいることを拒否する”感じって、今の時代、不利かもしれないと思っていたが、逆にすごい武器かもしれない。ということを、コンベンションライブで感じた。お客全員、招待の業界人なのに、あんなに“様子見”な空気がない、全員が全員はりつめた表情でステージを凝視しているコンベンションライブ、少なくとも僕は初めて経験した。冷笑を許さない。傍観者であることを認めない。冷笑した瞬間に「あ、俺今逃げた、この表現から」と思ってしまう。だから真剣に気持ちを向け続けるしかない。そんな場に感じた、僕はあの時間を。

  これからのMOROHAが本当に楽しみだ、と、素直に思う。

 既報だが、彼らは『MOROHA BEST〜十年再録〜』に先駆けて、ニューシングル『ストロンガー』を、3月21日に発売した。アフロのツイッターによると「極少数でも決意を形として誰かの手に残したくつくりました」「諸事情あってユニバーサルからは出しません。てめえらでプレスかけて、てめえらで梱包して、てめえらで発送します」だそうで、メルカリを使って数量限定で販売されたものだ。

 メジャーに挑む決意を表した曲である。で、『宮本から君へ』のオープニングテーマ「Easy Go」を歌っているレーベルの先輩、エレファントカシマシの「ガストロンジャー」を、モチーフというか、元ネタというか、自分たち流に書き直したというか、そういう曲になっている。で、そうであることが聴けばはっきりとわかるような書き方を、意識的にしている。

 そのことが<ユニバーサル・シグマ>から出さない理由だったのかどうかは知らない。が、エレファントカシマシのシンパのつもりであり、実際にエレカシ関係の仕事をよくしている(雑誌やファンクラブの会報でインタビューやレポをしょっちゅうやっているのです)僕のような奴が聴いて、率直に、最高だと思った。エレファントカシマシへのオマージュとしても、この歴史的名曲の解釈としても、今のこのタイミングでMOROHAが歌うべきこととしても。

 YouTubeにリリックビデオが上がっているので、未聴のエレカシファンは、いや、エレカシファン以外も、ぜひ聴いてみていただければと思います。

MOROHA「ストロンガー」MV

(撮影=MAYUMI-kiss it bitter-)

■兵庫慎司
1968年生まれ。音楽などのライター。「リアルサウンド」「CINRA NET.」「DI:GA online」「ROCKIN’ON JAPAN」「週刊SPA!」「CREA」「KAMINOGE」などに寄稿中。フラワーカンパニーズとの共著『消えぞこない メンバーチェンジなし! 活動休止なし! ヒット曲なし! のバンドが結成26年で日本武道館ワンマンにたどりつく話』(リットーミュージック)が発売中。

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