三宅彰×加茂啓太郎対談 2人が考える“音楽プロデューサーの役割”

三宅彰×加茂啓太郎語る“プロデューサーの役割”

「向井秀徳君との仕事が、かなり勉強になった」(加茂)

ーー加茂さんはよく「CDを売りたいんじゃなくて音楽を売りたいんだ」と言っていますね。宇多田さんは、去年12月に一斉にサブスクをスタートさせたじゃないですか。加茂さんも、フィロソフィーのダンスがSpotifyのバイラルチャートで1位を取りました。ふたりともサブスクに対して積極的なのでしょうか?

加茂:新人は積極的であるべきですよ。大物は別にフィジカルとか配信で買ってくれて儲かるから。

三宅:僕は微妙かな。古いのかもしれないけど、やっぱり一生懸命作ったものにはきちんとお金を出してほしいっていう気持ちはありますよ。

加茂:宇多田ヒカルって、CDシングル出さないじゃないですか?

三宅:たぶんね。

加茂:それはなぜかなと思って。

三宅:CDシングルって、握手券が付いてくる人たちの中に入っていかなくちゃいけないわけでしょ。その中で「売れてる、売れてない」って言われても、音楽と関係ないじゃん。

ーー加茂さんも、CDチャートだとどうしても特典会があっていい曲が売れづらいので、バイラルチャートのほうがいい曲が認められやすいと言っていましたね。

三宅:宇多田ヒカルに関して言うと、特典がないんですよね。それは、1枚目を買った人も100万枚目を買った人も同じものを手に入れることができるようにするためです。宇多田ヒカルを20年やっている担当ディレクターの沖田(英宣)さんが、「三宅さんは『特典は音楽に入ってるからいらねぇよ』っていつも言ってた」って言うんです。そんなこと言ったかなと思うんだけど(笑)。音楽の中にすべてがあるし、そこを愛してもらわないといけないと思うんですよね。

ーーフィロソフィーのダンスの特典会はどういう考え方でしょうか?

加茂:特典会自体があまりないですけどね。音楽を売りたいと言う反面、音楽を使って何かを売る時代だから、音楽を使って何かを売って、その売ったお金で音楽を作るという感じですね。僕のお金の回し方のパターンは。

ーー三宅さんは、これからふたりメジャーデビューさせますけど、アーティストはどういう手法で売り出したいでしょうか?

三宅:古いかもしれないですけど音楽にこだわりたいんですよ。もっと言っちゃうと歌にこだわりたいんです。今いい歌があまりないんですよね。昔は、リズムとか表現力とか、ものすごい歌手ばかりいたんだけど、今はみんなサウンドには凝るんだけど歌はあっさりしてるんですよね。サザンオールスターズが出てきた時に、黒人音楽に日本語を乗せた技術革新があったじゃないですか。ロックだったらキャロルが出てきた時に永ちゃん(矢沢永吉)がああいう風な歌い方をして革新があったんですよ。宇多田ヒカルが出てきたとき「Automatic」は「変な歌い方」って言われたけど、そういう歌の技術革新はまだできると思うんですよね。もっと日本語の美しさと日本語の伝え方のニュアンスにこだわっていきたいですね。

加茂:正直、日本の音楽は歌が下手でもいいっていう文化があるじゃないですか。それはすごく嫌ですね。フィロソフィーのダンスも「歌が歌えるアイドルグループを作りたい」っていうのが一番最初にあったんです。

三宅:日本人は、あまりにも歌がうますぎると今度は言葉が入ってこなくなっちゃうんですよ。だから一番いい歌って何かと言ったら、気持ちが伝わる歌。それが本当にできてるかと言ったら、僕はまだまだ追求できる余地はあると思っています。

ーーこれからプロデューサーになる人がやるべきことは何でしょうか?

三宅:歌を頑張ってほしい。スネアやキックの音がどうのこうのっていうよりも、歌に命がけでやってくれる人がいたら応援しますよ。

加茂:音楽マニアのディレクターってあんまりいないんですよね。若い子と話してもそんなに知らないので、そこから入るべきかなって気はしてます。

三宅:石坂さんは「2万曲持ってないとディレクターになっちゃダメだ」って言ってたね。

加茂:「人間ジュークボックスたれ」って言われましたね。今音楽は簡単にいくらでも聴けるのに、若いディレクターは知識がない感じがしますよね。

ーー2万曲はアルバムにすると約2000枚。

三宅:それが常に頭からパッと出てくるようにしろと。

加茂:そこから20年、30年経つと、もっといい曲が増えてると思いますしね。

ーーやっぱり音楽そのものに対する興味が強い人が重要なんですかね。

加茂:僕はそう思いますね。そうあってほしいですね。

ーー売れるためとなると、話は別でしょうか?

三宅:だから、音楽ビジネスだけのプロもほしいんですよ。今話してるのはクリエイティブについてだから。音楽を企業のビジネスとして成り立つようにするプロフェッショナルもほしいと思います。

ーー石坂さんは、エピソードを聞いているとそういう面のプロフェッショナルですよね。

三宅:石坂さんは真の音楽ビジネスマンですよ。

ーーそういうちゃんとした音楽ビジネスマンがなぜ今足りないんですかね?

三宅:今はプロになりきれなくて、曖昧でなんだかよくわからない迷ってる方が多いんだよ。

加茂:でも、梶(望・宇多田ヒカルのプロモーションを長年手がけてきたスタッフ)さんは売り方、宣伝のプロじゃないですか?

三宅:そうだね。梶さんも沖田さんも信頼できるプロ。沖田さんがいなかったら宇多田ヒカルのアルバムは出ないんじゃないかというくらい。僕は座って文句を言ってるだけで、仕切りやいろんな手配は彼がすべてやっているから。そういうプロたちが集まって宇多田ヒカルはやってる。20年間スタッフが一緒なんですよ。誰一人欠けることなく、レコード会社を移るって言ったら、みんな連れていっちゃう。普通はないですよね。

ーー国民的なアーティストって今後出てくると思いますか?

三宅:それは「宇宙人がいるのかいないのか」と一緒で、「この広い宇宙に地球人だけだったら寂しいじゃん」っていう話だよ(笑)。音楽がたくさんある世の中で、新しいアーティストが出てこない社会なんて寂しくないですか? ただ、僕はコンサルとして分析もやってるんだけど、2000年に入ってから新しいアーティストでメインストリームに残っているアーティストがほとんどいないんですよね。サザンオールスターズ、ユーミン、Mr.Children 、BUMP OF CHICKENが今も活躍してる。

加茂:マイナーチェンジ、モデルチェンジのアーティストは多いけど、ニューモデルはいないですよね。

三宅:ニューモデルのアーティストで2015年以降に出てきた人は10%いない。2000年以前に出てきた人が、今でも60%〜70%を占めてる。新しいアーティストって、出てきてもすぐに終わっちゃうんですよ。そのことをちゃんと見つめないといけないと思う。もっと長く生かせる方法があるのにね。

ーーそれはなぜだと思いますか?

三宅:長引かせる努力よりも、目先の一年や来年を乗りきる売上が大事になっているんじゃないですかね。たとえば宇多田ヒカルは今度発売するアルバム『初恋』を入れて、20年でオリジナルアルバムが7枚なんですよ。そういう話をすると「レコード会社泣かせのアーティストだ」って言われるけど、売り上げを年単位で割って考えてみてほしい。その方がレコード会社も得でしょう。作品数が少ないのは戦略でも何でもないし、それは本人のスタンスなんですよね。スタンスってみんな違うから、アーティストによってはたくさん出したいやつもいるし、もっとじっくりやりたいやつもいるし、そのスタンスに合わせるべきですよね。それを一律「みんな毎年必ず出すよ」っていうのは無しだと思うんですよね。

加茂:それは、締め切りがないとできないアーティストもいるし微妙なところですよね。でも、一年に1枚アルバムを出してツアーをするルーティーンになんで縛られないといけないんだとも思います。出したかったら年に3枚、4枚出してもいいし。

三宅:あんまり出さなかったら縛りがあってもいいと思う。アメリカは全部縛りがありますからね。ただ、ジャネット・ジャクソンでも縛りはありますけど、5年、10年で何枚とかですよ。日本のアーティストが一番リリースしている気がする。それと、やっぱりシンガーソングライターって個人で作ってるでしょ。一人で完結してるんだし、年間一枚は無理だよ。

加茂:あとは、「アルバムで10曲」っていうのももう関係ないじゃないですか。CDなら70分以上入るし、配信なら無限だし、それも固定観念に縛られてる感じはしますね。

三宅:やっぱりアナログ時代のあの分数って最高の分数なんだよ。片面22分ぐらいで、ひっくり返してまた22分ぐらい。俺はあの流れでいつも作ってるよ。なぜかと言ったら、20何分ぐらいでひとつの物語ができて、また次の物語が始まるっていう流れが、人間の気持ちにものすごく合うような気がするんです。しかも、Earth, Wind & Fireのアルバムをかけると、外周の音って一番派手な曲なんですよ。内周になるとバラード。1曲目からだんだん静かになっていく。またひっくり返すと、派手な曲が始まる。これがアナログのひとつのルールだったんだけど、すごく気持ち良かった。

加茂:最後もバラードで終わる。

三宅:そうそう。CDになった時に、長い収録時間のCDも多くなったけど、やっぱり人間が聴けるのは45分から50分の間だなと思っていたのでそれしかやってないけど、今や逆戻りしてみんな今40分台でしょ。ブルーノ・マーズはもっと短い。今洋楽は短くて、3分が10曲でアルバム。だから、やっぱり人間として本当にアルバムを楽しめるのは、このぐらいの分数じゃないのかな。

ーー邦楽もだんだん短くなっていくのでしょうか?

三宅:そうしなくちゃいけないのに、まだ長い人がたくさんいる。エド・シーランにしても、今洋楽ってほとんどイントロないじゃん。僕はフェードアウトが好きだから作るんだけど、みんなフェードアウトないよね。エンディングがきちんとある。

加茂:フェードアウトないですね。編集でいくらでもできるからじゃないですか?

三宅:本当に音楽の構成が70年代とか60年代とかの作りに近づいてきているんだよね。米津玄師のボーカルディレクションに携わっていてすげぇなと思ったのは、それなんですよ。すごくコンパクトでシンプルで、イントロも短くて歌もしっかり聴かせて、最後は必ずエンディングがある。で、ものすごく曲は短い。ずるいんですけど、プロデュースって自分が何かを誰かに伝えるんじゃなくて、本当はもらっているんですよね。だから、もらい合いなんですよ、お互いに。それに関して、日本のプロデューサーは少し間違っていて、親が子供に「言うことを聞きなさい」と言うようなプロデュースばっかりでしょ。米津玄師に関しても、僕自身が本当に勉強になった。

加茂:僕は向井(秀徳/NUMBER GIRL)君との仕事が、かなり勉強になりました。97年当時、アナログの8チャンネル・レコーダー、1日3万円の福岡のスタジオを使って録るなんて、そんな発想はなかった。東芝EMIの1日20万円のスタジオで録った音と福岡で撮った音と、どっちがいいか聴いたら、福岡のほうが生々しくて良かったんです。

 ナンバーガールに関しては、いくつかの事務所から声がかかっていたんですけど、DIYのスピリットがあったから無くてもいいかなと思ったんですよね。いまでこそ当たり前にはなってきましたけど、メジャーデビューするアーティストが事務所に所属していないって、当時は画期的でしたよ。

三宅:加茂さんさ、俺最近思うんだけど、プロデュースで一番大事なプロセスって何かって言ったら、歌を録っててやめる瞬間だと思うんだよ。やめるって言えないんだよ、みんな。さっきも言ったけど、歌入れはどこまで精神力が持つか、どこまで一曲に集中できるか、どこで止めてあげるかが一番大事だと思うんだよね。

加茂:悩みどころですね。いい歌は録れるかもしれないけど、時間もあるし、声のコンディションもあるし。

三宅:その止めるタイミングが難しいよね。打ち込みだったら何時間やってもいいんだけど、歌う行為って僕たちが考えてる以上に大変だよ。僕、歌手じゃないから適当なこと言ってるけど(笑)。

加茂:「じゃあお前がやってみろ」ってね(笑)。

三宅:その人たちよりも上手く僕はできないもん(笑)。そしたらやっぱり精神状態や気持ちを一番に考えてあげないとね。

加茂:三宅さん、某売れっ子スタジオギタリストにギター投げられた事件あったじゃないですか(笑)。

三宅:会社入って1年目ぐらいでディレクターやってたわけよ。23歳ぐらいでね。まだその時、アーティストとディレクターの関係がわかんないから、音を聴いてて「ちょっと違うな」って思って30回ぐらいやらせたの。そしたら30回目になったら急にキレて「お前が弾けよ!」って(笑)。

加茂:スタジオのガラスが割れましたね(笑)。

三宅:ガラスが割れて弁償して、ボーナスが飛びました(笑)。その時はアーティストの気持ちとかギタリストの気持ちとか、わかんないわけよ。その人がどういう思い入れで弾いているか考えてなかったもん。だから僕が悪かった。彼がキレて当たり前。

加茂:音楽自体、人が作ってますからね。

三宅:歌手が一番大変だと思うよ。ギターの弦だったら変えればいいけど、声帯を変えるわけにはいかないもんね。その気持ちを大切にしてあげないといけないと思いますね。

(取材・文=宗像明将/撮影=稲垣謙一)

■プロジェクト概要
『初の生演奏のワンマン・ライブを一流ミュージャンで開催し映像化したい!』
期間:2018年3月6日(火)22:00 ~5月22日(火)
URL:https://camp-fire.jp/projects/view/40225

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